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 ぽかんと呆気にとられる佐元は、すぐさま嫌悪を表情いっぱいに表した。臆する翔真の横で、「元彼ですよね?」と夏紀は言葉を繋げる。 「なんなんだ、君ら」 「西香織さんの友人の知り合いです」口にして、実にふんわりとした関係だなと改めて思う。「その子から、佐元さんが元彼だっていう話を聞いて……」 「探偵ごっこか。迷惑なんだよ」  端正な顔を思い切りしかめ、佐元は押し殺した声を発した。見知らぬ中学生にいきなり問い詰められるとは、確かに迷惑な話だろう。あくまで、彼が犯人でなければの話だが。 「迷惑なのは分かってるんですけど、一度話を聞きたくて」 「話すことなんか何もない。自分で言っただろ、俺は元彼だ。何の関係もない」 「元彼が関係ないわけないと思うんですけど」 「営業妨害だぞ。どいつもこいつも、俺を疑いやがって。君ら、中学生だろ。知らない子どもにまで嫌疑をかけられる身になってみろ」 「あの」  かき消えそうな声を翔真が発した。佐元がじろりと彼を睨む。 「僕ら、佐元さんが犯人だって思ってるわけじゃないです」半分嘘だ。「西さんの描いた絵にいたずらしてる犯人を探してるんです」 「絵にいたずら?」  佐元が怪訝な顔で呟き、そうそうと夏紀も大きく首肯する。 「被害者の描いた絵が涙を流すって噂があって、その犯人を探してるんだ」 「それが俺の仕業だって?」  新しく客が店のドアをくぐるのを見て、佐元は犬を追い払うように手のひらを振った。 「いい加減にしろ。年上をからかうな。さっさと出て行かないと、店長呼んで出禁にしてもらうぞ」  夏紀も翔真も再びこの店を訪れる予定はなかったが、渋々外に出た。仕事中の彼からこれ以上の話は聞けそうにない。 「なあ、翔真、見たよな。絵の話聞いたとき、明らかに動揺してたぞ」  店から五メートルほど離れた道端で、夏紀は興奮気味の声をかけた。絵がいたずらされる話を聞いた佐元が眉根を寄せる様子が、夏紀の目にはそう映ったのだ。 「そうかなあ」しかし翔真は煮え切らない声を出す。「僕には無関係に思えるけど」 「なんだよ、消極的だな。あの人、何の関係もないとか言いながら、きっと未練たらたらなんだぜ」 「少なくとも、人を殺すような人には見えない」 「それもわからんぞ。案外、ああいう真面目そうなやつが犯罪を犯すんだ」 「夏紀はあの人を、どっちの罪で疑ってるんだよ」  さあ、と夏紀は間抜けた返事をしながらも、意気込みを新たにした。 「あいつがバイトを上がるまで、ここで待機だ」  げんなりする翔真を引き連れ、夏紀は歩道を歩き始めた。
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