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「それ、誰から聞いたの」
「知り合いから」
「殺された西さんの友人が、僕らの知り合いなんです」
レジを操る店員の様子に、夏紀は目を輝かせて翔真を見る。やっぱり佐元は怪しいと言いたげな姿に、翔真は不満そうに眉根を寄せる。
「その時、レジをしたのが僕なんだ」
翔真に釣りを渡す店員の台詞に、二人は同時に「えっ」と声を漏らす。
「じゃ、その人の顔もちゃんと見たってこと?」
「警察で、元彼の写真も見せられたけど、同じ人だったよ。少なくとも、僕の記憶だけどね」
「何時にその人を見たんですか」
ピノを受けとりながら、仕方なさそうに翔真も質問する。
「防犯カメラにも記録が残ってたけど、夜の九時前だったかなあ」
西香織が殺害された時刻は、目撃者がいないせいではっきりとしていない。だが夜九時ともなれば地下道の大半の店がシャッターを閉め、当然人通りも激減する。佐本が店に寄った後に事件を起こしたとなれば合点がいく。
「でも、そんなことをする前に、コンビニに寄るかな」
「その人、何を買っていったんだ」
首を傾げる翔真を他所に夏紀は身を乗り出す。
「大したものじゃないよ。ペットボトルの……コーヒーだったと思う」
人を殺す前は喉が渇くのだろうか。緊張して水分が欲しくなるのかもしれない。
後ろに客が並んだのをきっかけに、夏紀は礼を言ってカウンター前を退いた。駐車場のベンチに腰掛け、買ったばかりのアイスを袋から出してさっさと齧る。腑に落ちない表情で隣りに座った翔真は、気乗りしない手つきでピノの箱を開けた。
「もう一回、あの人のところに行ってみようぜ」
瑞々しい梨の味を堪能しながら、今度はこのことを佐元に問い詰めてみようと心に決める。佐元に事件時のアリバイはあったのだろうか。きっとないだろう。もし容疑を否定できるアリバイや証言があるなら、彼は声を大にしてそれを訴えているはずだ。
「佐元さんは犯人じゃない」
横を向くと、きっぱりと言い切る翔真の横顔があった。俯く彼は、手にしたプラスチックの楊枝でアイスをつついて繰り返す。
「あの人は、犯人なんかじゃない」
夏紀は黙って、奥歯でアイスを噛み砕いた。
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