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 地下通路の絵が赤い涙を流した翌日の朝、朝食のトーストを食べていた夏紀の目はテレビ画面に釘付けになった。  女子大生刺殺犯自首のテロップが、画面の下方にでかでかと載っている。 「これ、もしかして……」  向かいの席でトーストにジャムを塗りたくっていた日和も、呆気にとられている。夏紀はパンの耳を咥えたまま、返事ができない代わりに何度も頷いた。  西香織を殺害した犯人は、深夜に警察署を訪れて自首した。その顔写真に、夏紀は見覚えがあった。  昨日の放課後に、翔真と立ち寄ったコンビニエンスストアで会話をした若い店員だった。  どういうことだと呟くと、口からぽろりとパンの切れ端が床に零れ落ちる。即座に日和から汚いとクレームが飛ぶ。  五十嵐(いがらし)という名の彼は、恐ろしさから自首を決めたという。それは罪の意識から芽生えた、犯人の妄想とも取れた。いや、そう捉える方が正常なのだろうが、もしかしたら実際にあり得たのかもしれない。  五十嵐は、地下通路の絵の中で、少女がこちらを凝視しているのを見た。まるで犯人を探しているが如く、自分を殺した男を見つめていたのだそうだ。 「夏紀の言うようなことも、あるのかもねえ」  玄関先で父を見送った母がいつの間にかそばにいて、感心した風に言う。夏紀は急いでトーストの残りを牛乳で口の中に流し込んだ。
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