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 地下通路の絵の前には、ちょっとした人だかりができていた。学生服を着た者が多く、その中で夏紀は翔真を見つけた。 「おまえの言う通りだったな」彼の肩を叩き、おはようより先にそんな言葉が出る。「佐元は犯人じゃなかった」  絵はいつもと変わらぬ姿を見せている。湖の前に立ち、こちらに微笑みかける少女。どう見ても、画面外を凝視しているようには見えない。 「絵の中の顔が変わるなんてことあるかな。犯人の妄想だろうけど……。翔真はどう思う」オカルト好きとしては、絵に乗り移った被害者の霊が真犯人に恨みを訴えたのだと信じたい。だが、絵が涙を流す噂に怯えていた犯人が、恐怖から見間違いを起こしたと考えるのが一般的でもある。  返事がないのを訝しみ、夏紀は翔真の顔を覗き込む。彼は微動だにせず絵を見つめている。 「おい、どうしたんだよ」 「あり得ない」  翔真は夏紀の方を見ず、掠れた声を漏らした。 「絵の中の顔が変わるなんて、そんなのあり得ない」 「まあ、実際に変わっては見えないよなあ」 「犯人の妄想だよ。絶対そうだ。間違いない」  翔真の小さな声が震えているのに気づき、夏紀はぎょっとする。彼は声だけでなく、その身まで細かく震わせていた。 「どうした、翔真」  翔真は消え入りそうな声で「あり得ない」を繰り返している。夏紀は翔真の腕を掴み、絵の前に溜まる野次馬から離れた。腕からも細かな震えが伝わってくる。  こんな時は、無理に話を聞き出そうとするのは悪手だ。それを知っている夏紀がしばらく待っていると、ようやく落ち着きを取り戻した翔真は疲れた目を向けた。怯えることにさえ疲弊した表情だった。 「夏紀……」  縋るような声だったが、彼は確かに言った。 「絵にいたずらをした犯人は、僕なんだ」
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