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放課後に訪れた職員室で、翔真はいじめが続いていたことを村井にも打ち明けた。隣りに座り話を聞いていた夏紀は、彼が黙っていた憤りよりも、話してもらえなかった寂しさを感じて居心地が悪かった。
翔真は、クラスが変わってからもいじめグループに万引きを強要されていた。
「でも、一回だけなんです」
焼け石に水としか思えない弁明に、村井はため息をつく。
「その盗んだものはどうしたんだ」
「……怖くなって、お店の外に落としてきました。失敗したって言ったら文句を言われたけど、殴られたりとかはなくって」
「甲斐、おまえなあ」
村井は組んでいた腕を解き、その手で翔真の肩をぽんぽんと二回叩いた。
「よく話してくれたな」
項垂れたまま翔真は何度も頷く。制服の膝に、ぽたぽたと涙が零れ落ちた。
職員室を出てから、二人で帰路に着く。夏紀は何と言えば良いのかわからない。翔真は、あれが彼らとの最後だから大事にはしたくないと訴え、村井も彼の意見を尊重した。ただ自分は無理でも、今後とも夏紀だけは頼って欲しいと言った。二人の視線を受け、夏紀は誇らしいやら恥ずかしいやら、奇妙な気持ちを味わった。
「……ごめん、夏紀」
「だからさあ」そう言って、どう続けるべきか少し悩む。「遠慮するなって」上手な言葉が出てこなかったので、翔真の背負う鞄をゆすって誤魔化す。
「まあ、言って欲しかったのは本心だけど」
「ごめん」
「気付かなかった俺も俺だし。この件は不問ってことで」
俺は翔真の保護者か。そう自分でツッコみたくなるが、翔真が照れくさそうにはにかむのを目にすると、自分の頬をかくことしかできなかった。
「ありがとう」
「それはいいんだけどさ、肝心なこと話せよ。俺、今日ずっとマジで気になってたんだから」
翔真はゆっくりと頷き、自分が地下通路の絵に涙を流させていた理由を語った。
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