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翌日、夏紀は朝の六時に翔真と地下通路の出入り口で落ち合った。昨日よりも早い時間のおかげで、更に地上の人通りは少なく、薄暗い地下に至っては人っ子一人いない。薄闇に吸い込まれそうな心持ちで階段を下りつつ、隣で翔真が緊張に身を強張らせているのを感じた。オカルト好きなくせにお化け屋敷にすら入れない彼らしい。却って強気になり、夏紀はずんずんと地下道を歩く。
ドラッグストアの角に来た時には、流石に緊張で心臓が高鳴った。それは絵が涙を流すという恐ろしさだけでなく、人が死に至った現場を訪れているという恐怖も相まっていた。今立っているこの場所で、一人の女性が何者かに刺し殺された。見つかった時にはすでに事切れており、犯人は未だに捕まっていない。
だが、不謹慎という言葉より、溢れる興味に突き動かされ、夏紀は角を右手に折れた。
足元にはジュースの缶や小さな花束がいくつか並んでいる。視線を上げ、壁にかけられた絵を見て、ごくりと唾を呑み込んだ。
額の中の少女は、昨日と同じように目から透明な雫を零している。ほんのり凹凸した油絵の彼女は、頬に涙の跡を拵えていた。昨日の下校時に水が拭き取られているのを、夏紀は確認している。翔真がか細い悲鳴を上げて腕を握ってきたが、これが女の子だったらなどと考える余裕はなかった。
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