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初めてのお庭
団地には一階でも庭付きでない所と、一階だと庭付きの所の二種類がある。
今回買ったエブリスト貝塚は一階にお庭がついている。
何度も打ち合わせで通っているうちに、真理はお庭がものすごく気になった。
打ち合わせの時は夏。雑草がすごいのだ。
引っ越してきて、忙しいのに雑草退治に負われるのは余り嬉しくない。
せっかく、こう何度も足を運んでいるのだから、打ち合わせの後、少しずつでも、お庭を綺麗にしたかった。
なにせ、打ち合わせの最中にも百足さんが床を這っていく有様だったから。
これは雑草を早く駆除しないと大変だと思った。
このお家のお庭には、前の住人が植えてあったツツジが東、南、西に一か所ずつの3か所、南にモミジの樹、蔓薔薇の樹、西にツワブキが目立った。真ん中あたりは多分芝生だったのだろうが、雑草におおわれていた。
一郎と、真理は打ち合わせ以外にも、庭を綺麗にしたいということで、工事中でも玄関をあけられる鍵を預かって庭を綺麗にすることにした。
真理は元々小さな植物が好きで鉢植えでゼラニウムや多肉植物を育てていた。
そこにもってきて待望のお庭だ。
自分で自由にしていいお庭を持ったのは初めてなので、いざお庭があるとなると何から始めたらいいのかもわからなかった。
一戸建てのお庭程には広くない。でも、これまで庭がなかった真理には広く感じる。サッシ両面3部屋分プラスはめ殺しの窓一枚分、奥行きは5m程ある。
真理は柑橘系の木を植えたいとずっと願っていたのだが、何を植えるのかをまずは考えねばなるまい。
そして、何が何でも、とりあえず、雑草は抜かねばなるまい。
エブリスト貝塚は階段型の団地だ。101号室と102号室が向かいになり、その間に階段がある。5階建てなら10戸が同じ階段になる。
真理の家は102号室なので101号室のお庭と、階段は違うが103号室のお庭に挟まれている。
引っ越しは10月を予定していたので、雑草をむしっていたのは真夏である。
ちょうど蔓薔薇が咲き終わる頃だった。内見に来たときには丁度綺麗に咲いていた。
真理は蔓薔薇はあまり好きではなかった。どこまでも蔓を這わすし、棘は有るし。その上、前の持ち主が施設に入った後、何年も放っておかれたので伸び放題に伸びていた。
雑草と一緒に一郎に頼んで蔓薔薇も切ってもらうことにした。
雑草を抜くのは真理は小学校の時以来だ。
真理の家は農家ではなかった。田舎の他の家の子供の家は殆ど農家だったので学校の草刈りも鎌で子供がバンバン刈っていた。
そこで一度酷く指を切ったことがあるので、短い草刈り鎌を買ってちまちま刈る。
夫も農家ではなかったけれど、真理よりはずっと鎌などの扱いも上手く、すぐにばててしまう真理は休んでばかりいたが、夫はほぼ休みなしで草を刈る。
草はすごい量になった。
リフォーム業者の人は、雑草も蔓薔薇も切ったものをまとめておいてくれれば自分たちが引き上げる時に片付けるからと言ってくれた。
本当にありがたい。
彼とは大規模修繕が終った後も、色々困った時には相談に乗ってもらっている。この団地近辺を集中的に扱っているので、連絡すると結構すぐに都合をつけて来てくれるので大変に助かる。人柄もいいし、まだ若いのにしっかりしていて仕事もきちんとしているので頼りになるのだ。
さて、お庭の話だ。
103号室のお庭はとても素敵に整えられて、雑草もない。
103号室のお庭には夏の花が咲き乱れ、鳥の水飲み場まである。真理はもう羨ましくて、よそのお家の庭なのに、しげしげと眺めてしまった。
お庭でお隣のおじさんと話す機会もあったので、どんなお庭にするか悩んでいるというと
「自分の家なんだからどんなふうにしたっていいんだよ。嫌な樹は切ればいいし、欲しい樹は植えればいい。自由にのんびりやればいいよ。」
と、真理の気分を楽にするような言葉をくれた。
「ただ、あれはちょっとねぇ。雑草の種が飛ぶんだよねぇ。」
と、101号室をちらっと見る。
あぁ、やはり雑草は駆除しなければ。
101号室側は、真理たちの購入した102号室よりも、ものすごい雑草が生えていた。
樹がない分、庭一面全てが雑草になっている。
真理たちが自分の家のお庭の雑草を抜いてしまうと、より目立って、風に吹かれる雑草はまるでサバンナの様だった。
不動産屋の担当者にも、お隣は空き家か尋ねたのだが、自分の担当ではないのでわからないという。
「確か誰かいたはずなんですけど・・・」
とはいうものの、一緒にお隣の雑草を見るに、人が住んでいるようには見えなかったのか、
「もう引越したのかも・・・」
と、はっきりしなかった。
ともあれ、鈴木家の新居のお庭は、とりあえず、元あった木をそのままに雑草は綺麗に取り除かれた。
団地の細則にも、庭がある場合は周囲の迷惑にならないよう、整える事が記されている。
雑草を刈りに来ている日に101号室のベランダに洗濯物が干されていた。
あぁ、人、住んでいるんだ。
でも、この雑草の庭が見える部屋で。
まぁ、どのように思うのかは、その人の自由だが。
雑草は草ではあるが、整備された庭とは言えない。
まして、お隣と思うと、雑草の種は飛んでくるし、蚊もわくだろう。
刈ってほしいと思いつつ、まだ引っ越すまでには間があるので、引っ越してからのお話だな。と真理は思うのだった。
鈴木家の住む102号室もずっと空き室だったので、101号室の人もあまり気にしていなく、それで雑草が生えていても放ってあるのかもしれない。
さすがに隣に人が住み始めたら雑草は抜いてくれるだろうと、真理は考えた。
お庭の雑草を何度か抜きに来ている間に、引っ越しの日が近づいていた。
水周りもできて、お風呂が使えるというので、雑草を抜いて汗まみれになった後、新品のお風呂でシャワーを浴びて帰宅したときは、本当にわくわくした。
そして、お庭を管理するのに何度も出入りをするので、引っ越し日が決まった時に、引っ越す前だが、あらかじめ引っ越しのご挨拶をすることに決めた。
『10月〇日に引っ越してきます。鈴木です。引っ越しではお騒がせをすると思いますがよろしくお願いします。』と印字した紙を入れ、もしお留守だったらドアノブに掛けてくることにした。
真理は以前住んでいた団地も階段式だったので、何となく分かるのだが、余程用事がない限り、自分の階段以外には人は来ないし、上階になればなるほど、その家の人しか上がらない。
小さな紙袋に、多分生活していれば使うであろう、サランラップの中くらいの物で、一番長い巻き数の物とその紙を入れて階段の10件と、階段は違うがお部屋は隣りに面する103号室にも配らせていただいた。
半数位の方が、平日の昼間でもいらっしゃった。
お庭は、段々整えていくことにして、いよいよ引っ越しまではもう少しとなった。
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