生活するために

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生活するために

 ようやく引っ越しの荷物も落ち着いてきたが、生活に必要な食べ物を買うためにお店を探さなければいけない。  引っ越す前から探してはいたが、一番近いところが「COOPみらい」という、生協が入っているスーパーだった。  引っ越す前には、なんだか団地の中をぐるぐるとすごく遠回りをしてCOOPまでたどりついていたので、歩いて10分ほどかかったりしていたのだが、引っ越して、少し団地内の道路が分かってくると、徒歩5分で着くことが判明した。  このスーパーの中にはドラッグストアのマツモトキヨシ、クリーニング店、COOPが一階フロアにあり、二階には百円均一のセリアとしまむらが入っている。  駐車場も大きく、とりあえず、何でもそろう感じだ。  真理は本がないと生活できない位、本が好きだ。  引っ越してすぐに近所に書店を探したが、一番近いところで元々知っているTSUTAYAが徒歩10分弱の所にあった。  他は、団地がちょうどこれまで使っていた京王永山駅と京王多摩センター駅の真ん中辺になるので、バスで京王永山の駅ビルの中の書店か、京王多摩センター駅の改札を出てすぐの啓文堂。もしくは、とても大きな書店がある永山駅の隣の若葉台駅まで行かなければいけなくなった。  多摩センターにはココリア多摩センターに丸善があるのだが、単行本は買えても、私のほしいレディコミがあまりないので諦め。  バスに乗るとその都度お金がかかるし、最初の頃は駅まで歩く近道も知らなかったので、永山と多摩センターのどちらの駅に出るにもバスに乗らないと無理だと思っていた。    歩いて行くにはTUTAYAしかなかった。  このTUTAYAは前に一人で住んでいたワンルームから鎌倉街道を真直ぐ上がった所にある。再婚後に住んだ民間マンションからも一番近い大型書店だった。TUTAYAに行くには団地を探検しなければいけなかった。  一番わかりやすいのはCOOPのある鎌倉街道に出て、そのまま下る方法。  でも、結構遠回りな気がして、真理は団地内を通っていくことにした。  まず、お隣の鎌倉街道の上に立つグリーンタウンに入り、鎌倉街道の上を並行していそうな通路をずっと歩いた。  そのまま降りる階段があったのでそこを降りると、目の前に広い公園があった。  公園の名前はまだわからないが、とにかく芝生が広い公園で公園の下に鎌倉街道が通っていそうな車の音が聞こえた。  緑が目に優しく、キラキラと輝く。歩いていてもとても気持ちが良かった。  公園の芝生の下の石畳をずっと歩いて行くと、テニスコートが4面ある場所に出た。  大勢の人がテニスを楽しんでいる。  そこに鎌倉街道に降りる階段があったので、ちょっと鬱蒼とした感じの階段を下ると、歩道に降りた左側にTUTAYAが見えた。  真理は団地内を散策したことがとっても冒険な気がして、ちょっと得意だった。  下に降りて鎌倉街道沿いを歩くと車の量も多いので、歩道を歩いていても、うるさいし排気ガスも気になる。  多摩ニュータウンらしい、大きな芝生の公園を見つけたのも嬉しかった。      食品や日常生活品は、最初のうちは都度COOP買い物に行っていたが、西友のネットスーパーで元々買い物をしていたこともあり、重いものははそちらで頼んでいた。  ただ、金額が5000円を超えないと手数料がかかるし、欲しいときに欲しいものが結局欠品だったりと言う事が続き、段々辞めてしまった。    少し時間が経って、COOPも宅配をしているという事もあり、COOPの宅配を週に一回定期的に頼むことにした。  お値段は高めでも夫婦二人分だけだし、冷食を多用して、真理の家事を減らそうとの一郎の試みでもあった。  真理はもともとうつ病を患っており、最近ではようやく病状は落ち着いてきているとはいえ、やはり、引っ越しで忙しかったことは真理の大きな負担になっていた。  引っ越して10日目には引っ越し後初めて、布団から出られない朝を迎えていた。結局一郎は心配で会社を早退することになった。  引っ越してから、毎日の様に洗濯もあり、掃除も一郎が会社に行ってから真理がしていたし、これまでよりも広い家なので、無理がたたったのだろう。  真理の鬱病は気分性障害と言われている。  本人が楽しいことだとその時は何となく頑張ってしまう。でも、鬱は見逃してはくれない。頑張った後に必ずつけが来るのだ。  でも、楽しいことには参加するので周囲の理解は普通の鬱病よりも特に難しいと思われる。  新居に引っ越して、興奮していたこともあるし、嬉しくて色々とやりすぎてしまったのだろう。  一郎は鬱の事ももちろん承知で再婚しているので、真理が調子が悪いと、一番最悪な事を考えて、できるだけ近くで寄り添っていてくれる。    ずっと通っているメンタルクリニックは京王永山にあるのでバスで通院できるし、夫婦で通っているアレルギーの薬をもらう内科も同じビル内にあるので、病院探しはする必要がなかったのは幸いだった。  ちょうど、二匹の猫のワクチンなども重なって、初めて新居から獣医さんへも行ってきた。  真理のワンルーム時代から通っている獣医さんで、本当はもう少し近くにもあるのだが、いずれにしても猫を連れているとタクシーじゃないと辛い距離なので、元々かかっていた獣医さんに行くことに決めた。  新居に引っ越したため、洗濯物も多かったし、ゴミ捨てのルールも前の民間マンションとは違い、前日の午後から当日までの間に出さなければいけない。  きっと色々頑張りすぎたので、そろそろ休めという身体からの指令だったのだろう。  朝からゆっくりベッドで休んでいたら夕方には元気になれた。  翌日からは、また庭の手入れなどを始めたくらいに。  ゆっくりと、この広い家に慣れ、庭に出てお日様を浴びるうちには今までよりも穏やかに過ごせるようになるだろう。  多摩市そのものにはずっと住んでいたので、電車に乗って出かけたりするお店の場所を把握していたのは大きかった。  車を持っていないのは、駅から離れたこの団地ではいかがなものかとは思ったが、結局、毎月の駐車場代や、維持費を考えると、タクシーを少しくらい使っても毎回バスに乗っても、車を買うよりは安いという事で、話し合って、車は持たない生活を送ることにしたのだ。  家のこまごまとしたものも、10月のうちにだんだん買い揃えて、段々と団地の生活にも慣れて行った。  バス停に出るのにも何通りも道があるのだが、真理はまだ一か所しか通らなかった。迷子になるのが怖かったのだ。  この年にはコロナが始まっており、東京オリンピックも延期になっていた。  そう言った理由で、団地では恒例の草刈りの作業なども少なく、あまり階段の人とも顔を合わさずに、日々が過ぎていった。      
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