上司のアナタと後輩のキミ

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――私も初めて香川課長と会った時は、独身かもと期待をしていた。私には珍しく、一目惚れだった。 当時は私も高知と同じ20代の新人で、まだ香川課長も課長職ではなかった。右も左も分からない私に、親身に仕事を教えてくれた上司の一人だった。 恋愛に奥手な私は、好きになったからと言って何をするでもなく、ただ近くで眺めるだけの毎日を過ごしていた。 香川課長が参加する飲み会には必ず行った。 隣に座れた日には、心の中は有頂天だった。 見た目の若さに、実は親子ほどの年齢差があることをしばらく知らずにいた。 知った後も気持ちは変わらず、彼の包容力と優しい笑顔にいつも癒やしを得ていた。 けれど、そんな日々を過ごしていくうちに、課長が既婚者だと言う話は、望まなくとも知る事となった。飲み会の席でそう誰かが話すのを聞いてしまったのだ。 階数が減っていく表示を眺めながら、小さく溜息を吐いた。 エレベーターが1階へ到着し、薄暗いロビーを抜けて外へと出た。月は小さく高い位置で輝いている。 秋の終わりに肌寒さを感じつつ、駅まで15分程の道のりを二人で歩いた。
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