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職場の飲み会
そして金曜の夜――。
何事もなく一日の業務を終え、飲み会に参加するメンバー達が先に上がっていった。
「これ、今日の場所ですからね! 迷ったら連絡下さい!」
そう言い、高知が裏紙に印刷した居酒屋の地図を渡してきた。スマホ操作に疎い上司達の為、紙で渡す事がいつからか習慣付けられている。
今年の新人にもそれは受け継がれているようだ。
「江東」
心地良い声に呼ばれて、相変わらず私の心は微妙に跳ねる。
「俺は帰るけど、大丈夫か? 飲み会参加するんだろう?」
気がつけば隣に香川課長が立っていた。
帰り支度をしているが、課長は今日の飲み会に参加しない。歓送迎会や部、課全体の飲み会じゃないと、課長は参加しなくなっていた。気軽な飲み会に行けば、部下に気を遣わせるからだと思う。
「はい、大丈夫です。19時までには終わらせるので…」
「そうか。じゃ、楽しんで。お疲れ様」
香川課長は目尻のシワを深くし、微笑むと帰って行った。姿勢の良い広い背中をそっと見送る。
せっかく気持ちを切り替えたのに、かつての想い人と話すと胸の奥がチリチリと痛み出す。
私は決めていた時間まで、目の前の仕事に集中した。
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