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上司のアナタと後輩のキミ
未だにふと、彼を目で追いかけてしまう。
あの時、苦い煙とともに淡い想いは吐き出したというのに――。
「江東、ちょっといいか」
私の名前を呼び、振り返った彼とすぐさま視線がぶつかった。慌てて一瞬だけ目を反らす。
見ていない振りをしたつもりだけど、すでに遅かったと思えて気まずくなった。
「はい、課長」
書類がパンパンに詰まった分厚いファイルが、何冊も打ち合わせテーブルの上に開かれている。
折り畳まれていたA3の地図を広げ、話し合いをする数人の職員に交じった。
変更箇所の確認や相手方の要望等を共有し、私はまた席へと戻る。座るやいなや、同じ課の新人が私の所へやってきた。
「江東さん…あの、すみません。今お時間よろしいでしょうか…」
書類の入ったクリアファイルを持ちながら、申し訳無さそうに彼は言った。
私は「またか」といった表情で見つめ返す。
「ん? 何? 何か分からないとこあった?」
「この書類の書き方って、これで合ってるのかなぁって…」
思わず私の片眉がピクリと動く。
新人と言えど、彼が県庁職員になってから半年近くが過ぎていた。
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