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温暖化
会社から帰ると4歳の娘が真剣な眼差しでテレビを見ていた。どんな番組かと思えばドキュメンタリーだった。地球温暖化により影響を受ける動物たちの特集だ。
「なんだ、難しいの見て……」
「シッ」
娘は口の前で人差し指を立て、俺を睨む。視線は画面に向けられたままだ。
キッチンで妻が苦笑を浮かべていた。肩をすくめつつそちらへと移動すると、
「あの子、最近あの手の番組をよく見てるのよ。邪魔しちゃ怒られるわよ」
「もう怒られたよ」
言いつつ娘へと視線を移す。画面に映る動物たちの窮状を目にして感情が高ぶっているのだろうか、その顔はほんのりと上気したように見える。
「まあ、あの年頃から環境問題に関心を示すのは、いいことかもしれないな」
妻にそう言ってから、俺は自室へと向かった。
風呂から出てリビングに行くと、血相を変えた妻が俺を見る。
「ねぇ。この子熱があるみたい」
見れば娘はソファの上でぐったりとしていた。
「おいおい。熱は測ったのか?」
「今見る」と言って娘の脇から取り出した体温計を見て、妻は瞠目した。
「やだ。38度超えてる」
「病院行くぞ。支度しろ」
取るものも取り敢えず娘を抱きあげ、玄関へと急いだ。思えばこの子はテレビを見ているとき上気したように見えた。恐らくあのときから熱は出始めていたのだろう。
インフルエンザだった。病院に着いたときには39度近くまで熱は上がっていたが、処方してもらった薬のおかげで今は何とか落ち着いたようだ。
妻はお風呂に入っている。その間俺が枕元で娘を見守っていた。
あれからずっと眠り続けていた娘がうっすらと目を開いた。
「あれ?お父さん、なにしてるの?」
「なにって、お前が熱を出したから看病してるんじゃないか」
高熱のあまり、記憶が混乱しているのかもしれない。
「お医者さんにも行ったんだぞ。インフルエンザだって」
「私、病気なの?」
「そう。一時は熱が出すぎてぶるぶる震えていたんだから」
それを聞いた娘は何事かを考えるしぐさを見せてから、
「じゃあ、きっと地球も病気なのね」
「どうしてだい?」
「だって、この前からすごく震えてるでしょ?」
目から鱗が落ちる思いだった。
果たして、それを治す特効薬は存在するのだろうか……。
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