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──俺は、大晦日に忘年会と称して、友人たちと居酒屋で飲んでいた。解散して腕時計を見ると、二十二時をまわっていた。
酔い覚ましに、お気に入りのファストフード店に寄り、いつものメニューを注文してコートのポケットから文庫本を取り出す。
ホットコーヒーで少し酔いが覚めたため、読書しながら年越しも悪くないと考えていた。
そんなとき、入り口の方がざわついた。なんだろうと顔を上げると、注文カウンターにいる店員に拳銃を突きつけている中年の男がいた。
「おいおい……」
もしや強盗? こんな大晦日に? 呆気にとられていたが、ふと俺はあることに気がついた。
あれは、間違いなくオモチャの拳銃だ。素人の俺でも分かる。どうしてそれがわかるのかと言うと、引き金のところに値札がついているからだ。
しわの寄った紙からして、リサイクルショップとかで買ったのだろうか。動かすたびにカチャカチャと軽い音がした。
「か、金を出せ!」
男は強い口調で発するが、その声はオモチャの拳銃を持つ手と同様、小刻みに震えている。店員の青年は、男の顔と拳銃を交互に見やり戸惑っていた。
男の格好は、お世辞にも清潔とはいえない。来ているオーバーは薄汚れて、所々ほつれている。
きっと、事情があるんだな。俺がそう思ったということは、店員もそう考えたのだろう。
「あの、どうしてお金が欲しいんですか」
青年は勇敢にも問いかけた。
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