エンドレス・ラプソディ

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「いいから金を出せって!」 「ギャンブルとかですか?」 「う、うるせえ! オレはな、あした食う金もねえんだよ。借金もあって、もう終わりだ。だから何やったって怖くねえんだよ! わかったなら早く金を出せ!」  なんだかんだで、しっかりと説明している。  そんな男の様子を目の前で見ていた青年は、オモチャの拳銃ということで強気に出たのか、説得を試みようと瞳を輝かせた。 「えと、あの。店内でお召し上がりでしょうか」  緊張のあまり、とんでもない返答をした。 「は?」  何言ってんだこいつと顔をしかめた男だが、店内にいる全員が同じ気持ちだ。 「おすすめはミック・ジャガーセットです」  違う。肉じゃがセットだ。イギリスのロック・ミュージシャンをどんなセットで売りつける気だ。  若いのによくミック・ジャガーなんて知ってるな。 「オレはボン・ジョビィが好きなんだよ!」  強盗犯はアメリカのハードロック・グループを挙げてきた。年代的にはそうだろうな。 「是非、食べてみてください。当店、イチ押しの商品です」  ファストフード店で肉じゃがなんて珍しいが、確かに美味い。  だから俺も、仕事帰りによくここで飯を食う。これでアルコールが充実していれば居酒屋なんだろうが、あくまでもファストフード店を貫く気概(きがい)が、「ファストフード」という店名に出ている。  よりにもよって、そのままかよ! って初見で思ったが、気になって入ってみたら居心地はいいし、料理は美味いしで気がつけば常連になっていた。
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