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「おやニイちゃん、顔が真っ白だぜ」
屋台の男に声をかけられ、勇者カンクロは『下男ゲンゴロ』に引き戻された。
周りを見ると、先程とは違う大通りだ。ハタタカもいない。迂闊にも、はぐれてしまったらしい。
「今日は寒ぃから、タンタ・ラターリァ飲んであったまりなぁ」
男が掲げたカップには、温かい果実酒が、香辛料とともに入っている。
『タンタ・ラタリァ…?』
ゲンゴロは片目をしかめた。
ラターリァとは、香辛料入り温果実酒のことだ。カルカナデ方言ではラタリァと短くなる。
懐かしい香辛料と果実の香り。屋台の軒には、二又の枝の片方にだけ付いた赤い香辛料・マッテンの実。
『タンタは伝統も忘れちまったのかよ…』
ラタリァは…少なくともカルカナデでは…極夜明けの祝いに飲むもので、極夜の間に屋台で気安く飲むものではない。受け取る気にはなれなかった。
「悪ぃな、金持ってねえんだ」
「ゲンゴロおおお!」
勇者ハタタカが、半ベソで駆けつけた。
※※※
「ニイちゃん、勇者様のお付きの人かぃ。いけねぇよ、勇者様に心配かけちゃ」
「そうなのだ、勝手に歩いてっちゃ迷子になるのだ!」
「……すまねぇ、勇者様」
「ところで何をもらおうとしてたのだ?」
「貰う気ぁなかっ」
「よくぞ聞いてくださいました勇者様! タンタ名物ラターリァでございます!」
「なんなのだ、それ?」
断れなくなった。ゲンゴロは仕方なく、極夜明けの飲み物を受け取った。未成年のハタタカは、ラターリプ(果実ジュースに香辛料を入れたもの)を受け取る。
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