タンタの極夜祭

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「そ、そうなのだ……」  ハタタカは、そっと下男…元勇者カンクロ…を見た。無表情で、何を考えているか分からない。 ※ 「いけねぇ勇者様、そんなに震えて。寒いのかぃ」  あの時、震える自分にラタリァを差し出した男。 「カルカナデじゃ、マッテン丸ごと入れて飲むんだろ。コレ飲んであったまりな」  そして、小声で。 「しっかりしなせえ勇者様。そんなじゃ北国は全滅しちまぁ。アンタが真っ先に折れてどうすんだぃ」  そして、バンバンと肩を叩きながら、大声で。 「魔物しっかり倒してってくれよ!」  自分が情けなかった。恥ずかしかった。 ※  時は過ぎた。  北部諸国は全てテルテマルテ領となり、故郷はマッテンを丸ごと入れたラタリァすら忘れた。  だが、タンタには残っている。残してくれた。  ゲンゴロは、マッテンの実を噛んだ。  そして、百年以上前にタンタでラタリァを貰った時と同じ祈りを、旧語で捧げた。 【ここに来なば、浅はかな己は何も知らぬまま心を騒がせていたことでしょう。神よ、導き心より感謝します。タンタと彼の一族の行先に幸在らんことを】  酔いも手伝い溢れる涙を押し込みながら、下男は呟いた。 「辛ぇ……」 「よーし、正直に言った!」  震える手で、故郷の味を受け取る。暖かかった。 (了)
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