薔薇とかすみ草

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 私は彼を尊敬していたし、友として友情も感じていた。  だからこそ伝えるのが怖かった、私のこの想いを。  彼は男ながらにかなりの美貌の持ち主で、どこにいても注目の的になる。私はその陰でひっそりと佇むのが常だった。  ある日彼は、 「君はいいな、羨ましいよ、僕はどこにいても休まらない」  必ず誰かがくっついて来るから、とため息をつきながらこぼしていた。 「君はそれだけ魅力的なんだよ」  私は本気で言ったのだが、まさか、と笑って流されてしまった。  魅力的、それは人として、恋愛対象として、友人として、色んなものが絡まって私の中でこじれていく。  手を伸ばせば届く距離にいる。  しかし、それが今の私には空に浮かぶ太陽ほど遠くに感じてしまう。  友としての時間が過ぎていったある日、彼のこんな話しを聞いた。縁談話だ。  相手は家柄も器量も良い女性で、もう式の日取りを決めようか、なんて所まで進んでいるらしい。  私より良家の女性と結ばれた方が彼も幸せになるだろうな。きっとそうだ……。  久しぶりに彼に会うと、私はお祝いを言うと決めていた。 「久しぶりだね、ちょっとばたばたしていてなかなか時間がなくてさ」 「ああ、噂は聞いてたから知ってるよ。相手は良いところのお嬢さんなんだってね、結婚おめでとう」  私がそう言うと彼は少し固まって。 「あー……それはー……実は破談になったんだ」  は?私は面食らった。 「まさか君が振られたのか!?」  有り得ないだろう、あれだけモテてきた彼が女性から振られるなんて。  何があったのかと聞くと。 「僕がお断りしたんだが、なかなか納得してもらえなくて」  相手の家とうちの両親を説き伏せるのに苦労した、ということらしい。 「相手の方に不足があった訳じゃないんだろう?どうして……」 「僕には想い人がいるんだ、だからお断りした」  想い人、か。  破談の話しに少しほっとしたのも束の間、彼にそういう人がいたとは、まったく気づかなかった。 「そうか、君が惚れるんだからきっと素敵な女性なんだろうな、応援するよ」  ここで暗い気分になる自分が嫌になる。親友の恋を心から応援出来ないとは。 「その……実は好きな人は女性じゃなく男性なんだ」  男、とは。驚きで言葉が出ない。 「ずっと引かれると思って言えなくて、でも好きになってしまったんだ君のことが」  君って……まさか。 「本気かい?私みたいな面白味のない地味な男、冗談なら今のうちにそう言ってくれよ、期待なんてさせないで。君の陰に隠れるだけのなんの取り柄もない私なんだから」 「冗談なんかじゃない、君はいつでも僕を特別扱いしないでただ普通に接してくれた。それが僕は嬉しかったし心地よかった。君の隣にずっといたいと思っていたんだ、生涯ずっと、でもこれは世間的には日陰の恋だ、だから言い出せなかった」  彼が本気なのがわかった、同じ気持ちだったのも、だから私はこう言った。 「私も同じ気持ちだったんだ、これからも君の隣にいたい生涯ずっと、だから……よろしくお願いします」  私達は嬉し涙を流して抱き合った。
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