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「徹! どうしたの、それ……!」
玄関を開けた僕を見たお母さんの、悲鳴のような声。
「お母さん、仕事は?」
しまったなあ。
まさかお母さんが、この時間に家にいるなんて思わなかった。
「この間、日曜に半日出たから午後は代休なのよ。……それより何があったの!?」
僕が着ている薄い青のシャツの前裾が、血で汚れている。ハンカチを巻き付けた左手も不自然だよね。
あいつに突き飛ばされて当たった窓ガラスが割れたから、手の甲を切ったんだ。
「ちょっと、クラスのやつに……」
「誰に何をされたの!? 徹、お母さんには教えてちょうだい。たった二人きりの家族じゃないの!」
それを言われたらもう逃げられないよ。
お母さんにとっての僕も、僕にとってのお母さんも、何よりも大事な唯一の『家族』なんだ。
無視も嫌がらせも別にどうってことなかった。強がりなんかじゃなくて本当に。
どうせすぐに飽きるだろう、ってこっちの方こそ無視してたんだ。耐えてた、って意識は全然ないな。
──そういうところもあいつには気に食わなかったのかもね。一人じゃ何もできないやつには。
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