第二章 桜の丘

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第二章 桜の丘

 起きると、雰囲気も変わっていなかった。ただ桜の木があるだけ。 「・・・ふぁあ・・・。」 ちょっとよく寝たような満足感に包まれながら私は立ち上がった。 「そろそろ帰るか。」 誰に言うともなしにつぶやいてそっと歩き出そうとした。が、後ろから腕を掴まれた。 「・・・、ちょっと待ちな。」 ハッとして振り向くと、 「フッ。異人が。」 そこには抜き身の刀を持った、侍がいた。 彼は憎らしそうな顔をして、私の首に刃先を当てる。  恐怖に声も出ず黙っていると、彼はそっと刃先をどけた。 「生憎女を切る趣味はねえ。とっととここから去りなっ。京は異人が立ち入っていい場所じゃねえ。」  ・・・、何を言っているのだろう。偉人?私はそんな大層な人間じゃない。 「偉人じゃない。それに、貴方のほうが危ないのでは?警察に捕まりますよ?」 あえて丁寧に言ってやったが、 「ああ?異人だろうが?つかけいさつってなんだ?」 やっぱりこの人の言うことはわからない。そう思ってほっとくことにした。 スタスタと丘を降ろうとすると、 「おい!そこの浪士と珍妙な格好の女!止まれ!」 「屯所までご同行していただく。」 サッと男は呟いた。 「新選組だ。とりあえず逃げるぞ。」
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