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「………、キャスティナ様と一緒じゃなくて良いの?」
居心地が悪くて、ぶっきら棒にカルディナは問いを投げる。
対するフォルクスは溜息混じりに胸ポケットに押し込んでいた缶コーヒーを取り出し、器用に片手でその栓を開けた。
「今はハインブリッツ閣下と今後の相談中。いつ頃ルノレトに移るか話を詰めるってさ」
「ルノレトか…。セーディス様、元気かな…」
何気無しにそう呟いた瞬間だった。
丁度コーヒーを口に含んだフォルクスは、噴水の如く盛大に黒い飛沫を飛ばした。
「せ、セーディスってあの大商人のっ⁉おまっ、会ったのかよ⁉」
ベタつく口元を拭いながら、彼は驚きのあまり声を荒げた。
「やっぱり界隈では有名なの?」
あっけらかんと首を傾げ、カルディナはハンカチを差し出す。
そんな彼女に眉間に皺を寄せたフォルクスは、半ば呆れた様子でそれを受け取った。
「有名も何も、セーディスあれば敗北無しって言われるくらいだぞ…。どういうコネクト持ってんだよ…」
「いや、元はヴォクシス閣下の伝だし。なんかエルファの伝承が好きみたいで、お話する内に私も気に入られたみたい」
「通りで帝国の猛攻受けても落ちねぇ訳だわ…、全くこの国はとんでもねぇバケモン揃いだなぁ…」
こちらの裏事情を悟ったのか、そう呟いた彼は酷く顔色を曇らせた。
今更ながら、ヴォクシスの手腕に慄いたらしい。
「バケモンはお前さんもだろうに…」
不意に聞こえた、そんな声に二人して振り返る。
少し遅れての昼食なのか、お弁当箱を片手に持ったランドル元大尉の姿があった。
今は特進して中佐である。
「ランドル中佐?あれ?先に王都に戻る筈じゃ…」
予定ならば、ここにはもう居ない筈の姿に、カルディナは首を傾げた。
聞いていた限りでは、ランドル中佐は先んじて直属の部下達と王都に戻り、第一師団の立ち会いの下、デュアリオンの保管先の準備をする予定だった。
―――と言うのも、王城襲撃に際してセルシオンが第二格納庫の壁に大穴を開けた為、建て直しを余儀無くされた所為である。
噂では戦闘用ボディの再製造もあり、この機会に以前よりも広くするとのことである。
「それがな…、急遽、明日のヴェルフォート領事館での夜会にサプライズゲストとしてキャスティナ殿下が参列することになったらしくてな。追加の警備人員として俺達も駆り出されることになったんだよ。ヴォクシス曰く、お前さんも出席するから万全を期したいんだとさ…」
そんな思わぬ話に、彼女は驚愕の目をした直後、俄に眉間に皺を寄せた。
全くの初耳である。
内心としては、またかと言いたい。
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