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夜会へ
夕刻、駐屯基地内のとある会議室にて、ヴォクシスより手渡された夜会への案内に、カルディナは怒り心頭となった。
誰の何の差し金なのか、明日の夕方に行われる国内有数の大規模夜会にカルディナが参加する旨の返事が当人等の知らぬ所で先方に出されていた事が発覚した。
この件に関して全く持って見に覚えがない為、事件性を視野に入れて現在調査を依頼しているが、既に彼女が出席すると聞き付けた報道各社や出席者等が盛大に騒いでいるらしく、断ることは最早、困難な状況に陥っていた。
「閣下…、私、夜会は懲り懲りだって言いましたよね?デビュタントであんな目に遭わされて大恥欠かされたのに、それでも出席しろと?パパラッチに撒き餌するようなものでは?」
唸るように告げられる怒涛の怒りに、ヴォクシスは思わずキュッと目と口元を窄めた。
あまりの剣幕にタジタジである。
このような事態が置きぬようにと持ち前の人脈で各所に根回しはしていたつもりだったが、思わぬ抜け穴があったらしい。
「シャンティス特務大佐、こうなってしまったからには出るしかありませんよ…、ドタキャンは流石に印象を悪くします」
そう宥めるのはモーヴ少佐であった。
彼は由緒ある伯爵家の嫡男であるので、この事態に少しでもアドバイスを貰おうと呼び立てた次第である。
「取り敢えず家の妹達が懇意にしている近くのブティックに連絡を入れておきました。軍用車も一台借りたので見繕いましょう」
腕時計を確認しつつ、彼は借りてきた車両の鍵を見せる。
「え、服なら軍の礼装でも…」
そう訊ねるカルディナだったが、少佐は渋い顔をして止めておけとばかりに首を振った。
「ヴェルフォートの大夜会でレディが軍服を着て来たら確実に浮きます。あれは我が国の一大婚活パーティーですから…」
「は、はいっ⁉」
思わぬ話に素っ頓狂な声を上げた彼女は、ボッと顔を赤らめた。
まだ恋すら知らないというのに―――、十五にして結婚相手探しとは気が早過ぎるというものである。
この事態を引き起こした御仁は何を考えているのか―――…。
「あ、そうか…」
そんな横で何かを思い出したように、ヴォクシスが呟く。
その声に視線を向けた二人に、彼は大層申し訳無さそうに眉を下げた。
「…誰の仕業か分かったかも」
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