終末の皇帝

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「アクアス、そこにおるな?」  途端に痛みから開放され、再びの鋭い眼光で窓辺のカーテンに呼び掛ける。  その内より、現れた甥の姿に皇帝は不敵に微笑んだ。 「母の事が心配だったか?」 「まさか。あれは私を産んだ者に過ぎません」  鼻で笑いながらアクアスは答え、アンドロイドと共に枕に横たわろうとする伯父の身体を支えた。 「寧ろ、陛下のご判断が気掛かりでなりません。カローラスより万物の語り部(シエンティア)を連れて来ようにも、母上ではヴォクシス・ハインブリッツの始末が難しいのでは?」  上質なシルクをその御身に掛けつつ、彼は続けて訊ねた。  ご所望の彼女を手に入れるには、ヴォクシス・ハインブリッツと彼率いる連隊の守りは避けては通れない。  度重なる拉致の失敗により王国側の警戒も一段と強く、秘密裏に連れ去ることは最早困難である。  強硬手段の大規模武力衝突となれば、互いに大小の犠牲は避けられず、アヴァルト王国とも開戦した帝国とっては大きな痛手となりうる。 「これは奴への試練だ。それを乗り越えられぬなら、もう使い物にならん…」  吐き捨てる皇帝に、アクアスは嗤った。 「私にイーシスの始末を命じたのと同じですね?ならば陛下、母が万物の語り部(シエンティア)の奪取に失敗した折には私がを頂いても?」  胸に手を当て、意味深に笑みを浮かべた彼に、皇帝はそれでこそ我が甥だと高らかに笑った。 「過去、お前ほどに朕の期待に応えてくれた益荒男はおらんな…。悲願達成の暁にはお前の欲しい物をくれてやろう…」 「なれば是非、《主神(シェール)の瞳》を所望したく…!」  その要望に皇帝は素晴らしいと更に声を上げて笑ったが、その拍子に弱った肺に障ったのか噎せ返り、枯れ枝のような掌に血の塊がこびり付いた。  傍らのアンドロイドは、貼り付けた笑みをそのままにテキパキとその血を拭い、介抱に従事した。 「お前も野心家だな…!期待しておるぞ!」  乱雑に口元を拭い、皇帝は血の滲む歯を見せながら期待の眼差しを向ける。  そんな枯れ行く帝国の太陽を前に、アクアスはお任せあれと厳かに頭を垂れた。
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