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竜騎士乙女
カローラス王国の西に位置するベルウッド領は国内屈指の農業地域であり、その豊かな作物生産量は国庫は勿論、世界の食糧備蓄をも少なからず支えている。
何処も彼処も田畑と牧場に埋め尽くされるその土地で、緑に覆われていない唯一と言っても過言ではない地区が在る。
それこそがベルウッド駐屯基地であった。
「ちょっと!詰めて詰めて〜!」
「次来るぞ〜!!」
「おーい、そこの車両退けろー‼」
騒々しく兵達の怒号が飛び交う中、流れるように戦闘機が続々と着陸しては鮨詰め状態で格納庫に仕舞われていく。
そんな中、優雅に翼を打って地に降り立った白銀の竜に誰もが羨望の眼差しを向けた。
夕闇に浮かび上がる体長凡そ十五メートルにもなる機械仕掛けの巨躯は神々しさを纏い、その胸より現れた銅色の髪の少女は戦乙女を彷彿とさせた。
「あれが竜騎士乙女…」
そんな呟きを誰かが漏らした。
それは国内外で囁かれるカルディナの異名であり、一部ではコードネームとしても使われている呼び名であった。
「カルディナ、お疲れ様」
一足先に着陸していた輸送機より歩み寄るヴォクシスは、疲労の色を見せる娘の背を擦った。
デュアリオンでの長時間連続飛行は今回が初めてで、若干足元の感覚がフワフワしていた。
「二時間のフライトは流石に酔いました…」
こめかみを擦りつつ、カルディナは眉間に皺を寄せる。
島を旅立つにかなり泣いてしまったのもあって喉が渇き、頭も痛い。
恐らくは軽度の脱水症状である。
「基地内のクラブに連絡したから身支度整えたら夕飯としよう。ここの食事は陸軍一だからね」
ハラハラと機体から離れる魂授結晶と戯れつつ、彼から告げられた夕飯の誘いに彼女は控えめながらに表情を明るくした。
士官達の噂話でベルウッド駐屯基地にある呑み屋のご飯は、とても美味しいと聞いていた為である。
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