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お昼休みの時間となり、お祭り騒ぎのグラウンドを屋上から見下ろしながら、カルディナはちゃっかり分けて貰った炊き出しごはんにありついていた。
メニューは持ち運びに適した平たい堅めのパンに、もってりしたカレーである。
今回は災害時を想定している為、全体的に水分が少なめである。
(…美味しいけど、飲み物無いと口の中が乾くなぁ…)
堅いパンの所為で何だかもそもそする口の中に難儀しつつ、パックの牛乳を片手に一人食事を進める。
本当はグラウンドで士官達と談笑がてら一緒に食べたかったが、カルディナを見つけた一般市民が握手やら記念撮影を求めまくる為、諦めるしか無かった。
賑やかな声を聞きながらの一人ご飯は寂しいものである。
「パンの中にカレー突っ込むと食べやすくなるぞ」
そんなアドバイスに誰かと思えば、フォルクスだった。
彼も炊き出しを貰ってきたらしく、器用にパンを袋状に割いてその中にカレーを投入していた。
「あ、成程。賢い」
「戦時の知恵だ。覚えておけ」
何処と無く気障に言いながら、彼はさり気なく隣に腰掛ける。
同時にカルディナは距離を保つように一人分の空間を空けた。
特に意味はない。
自然に身体が動いていた。
「…何か、御用ですか?」
「へっ?」
パンを割いて真似する彼女の問いに、フォルクスは思わず間抜けな声を漏らした。
民衆に気圧される形でここまで追いやられ、一人で淋しげに食べていたのが目に止まり、堪らず声を掛けただけ―――とは言えない。
そんな事を言えば、ずっとその姿を目で追っていたことがバレてしまう。
「まさか、また誂いに来たとか…?」
眉間に皺を寄せて訝しげに訊ねるカルディナに、彼は慌てて首を振った。
「そうじゃなくて、その…、昨日はありがとう」
不意の感謝の言葉に、彼女は何のことだとばかりに首を傾げる。
「喧嘩の仲裁に入ってくれただろ?テーティは最年少の仲間でさ…、士官に囲まれてるの見て思わず手を出しちまったが互いの勘違いだった分、引っ込み付かなくなってな…。助かったよ」
自嘲気味に肩を竦めながらフォルクスは、内心、焦りながらも何とか話題を作った。
結局、昨晩の一悶着は双方への厳重注意に留まり、お互いに謝罪を述べたことで事無きを得た。
「まあ、借り一つということで…」
何だか気まずそうにカルディナは答えて、アレンジしたカレーパンを齧った。
確かにこれなら食べやすい。
「…彼女の翼は直りました?」
「お陰様でな。やっぱり潮水が原因だった」
「それは幸いで…」
ポツリポツリと会話を続けつつ、二人してパンを咀嚼。
食べ終わりと共に無言となり、気まずさが増した。
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