序章

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すでに広場は大勢の人で溢れかえっていた。 人ごみが苦手なアイリスが渋い顔をしていたが、 少しの辛抱だと自分に言い聞かせた。 そうこうする間に、村長が人々の前に現れる。 さっきまでのざわつきが嘘のように、広場に沈黙が響いた。 二、三回咳払いをした後、村長が口を開く。 「前回、ローリエを継承したアンジュが、玉砕した。」 村人が何人か歓声を上げた。その中には、アンジュの母親と思われる女性が、歓喜の涙を流していた。 「ぎょくさい…って何?」 レイアがキース先生に尋ねる。 「名誉ある死のことじゃ。」 「ふーん」 わかったのかわかっていないのか、曖昧な返事をする。 「そこで今日は、新たな継承者を発表する!」 指を絡めて願う者もいれば、瞬きをせずその時を待つ者もいた。 村人全員が息を呑む。 「レイア・バズダン!」 大勢の目が一斉にレイアに向く。 僕も、カイもアイリスも、驚きのあまり声が出なかった。 「…前に出てきなさい」 村長の言葉通り、人ごみをかき分けてゆっくり前へ歩いていく。 その表情は、相変わらず無機質なままだった。 「ローリエはレイアが受け継ぐ!祝福の拍手を!」 村長がレイアの右腕を掴んで、高く空に上げた。 1人が手を叩き、また1人と連鎖するようにして盛大な拍手を生む。 僕もつられるように手を叩いた。 「アイツ凄いな」 「我が村の誇りですね」 羨ましそうに二人が言った。 継承式は拍手が止むと同時に閉会し、 集まっていた村人はこぞって家へ帰っていく。 レイアは村長に連れられて、丘の向こうへ行ってしまった。 「わしらも帰るぞ」 キース先生の一言で、止まっていた足が家路を向く。 何度も、広場を振り返った。 ローリエに選ばれた者は、人間とは違う場所で生きることになる。 死ぬまで会えないのだ。 名誉あることだとしても、突然の別れに、僕は納得できなかった。 祝福よりも、寂しさが勝った。 「…ゴホ、」 「大丈夫か、ルタ。」 カイが優しく声をかけてくれるが、 上がってきた熱のせいで意識が朦朧とする。 「ルタ!」 再び名を呼ばれた時には、地面の冷たさを感じていた。  
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