序章

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いつ家に着いたのか、式からどれくらい経ったのか、 起きた頃には窓が星空を映していた。 各家の灯りも消えていて、深夜であることに気がつく。 なんとなく喉に乾きを覚え、重だるい体を起こして部屋を出た。 カイもアイリスも、とっくに眠っているだろう。 …レイアは、帰ってきたのだろうか。 リビングへ向かうと、真っ暗で何も見えなかった。 部屋にランプを置いたままだったことを思い出し、 手探りで慎重に進んでいく。 ふいに足が何かにぶつかり、よろめいたところを誰かに支えられる。 暗闇で何も見えないはずなのに、それがレイアだとわかった。 「…まだ起きてたのか」 触れた腕は、まるでずっと外にいたかのように冷たかった。 「レイアこそ、どこに行ってたのさ」 僕の問いをはぐらかすような沈黙が流れる。 「…熱は?下がった?」 無機質な声の中に、心配の色が視える。 「さっきよりはマシかな…まだ、治ってないけど」 「そう。なら良かった」 なんとなく気まずくて、僕は必死に話題を探した。 「…あ、ローリエ継承おめでとう。やっぱり凄いね。  会えなくなるのは、寂しいけど…」 レイアは昔から勉強以外は何でもできた。 継承者に選ばれても、何ら不思議ではない。 「凄い、か…」 「え?」 「何でもない。もう風邪引かないようにね」 掴んでいた腕をそっと放して、遠ざかっていく足音。 離れていくのだと気づくには、少し遅かった。 真っ黒なレイアの背中に手を伸ばす。 「さよならだ、ルタ。追いかけてきたらダメだよ」 その声はいつもと何も変わらなかった。 暗闇に隠された感情を、僕は見ることができなかった。
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