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「ササちゃん」  待ち合わせの場所に、ひとりの若い女性が現れる。花柳がいたグループのファンだ。笹枝はインターネットの世界では「ササ」と名乗っている(それは笹枝が幼い頃からの愛称でもある)。今やって来たのは「桃けんぴ」だ。ササと桃けんぴ、互いに相手の本名は知らない(「もも」は本名から取っているのではないか、と笹枝は予想している)。  ももけんぴは花柳が脱退してからのグループのファンという、少数派の人間だ。グループの人気は落ちる一方だったので、笹枝はうれしかった。花柳がいなくても、笹枝にはグループを応援したい気持ちが残っているからだ。「グループの活動が苦しい時期を知らない人は同じファンとして認めない」と、反対に嫌がる人間もいるが、笹枝は自分と違う意見を気にしない。  それまでインターネット上でしてきた交流の延長線かのように、笹枝とももけんぴは色んな話で盛り上がる。 「そうだ。ササちゃん、これ、行ってみたらどう?」  ももけんぴはそう言って、自分のカバンから一枚のチラシを取り出す。
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