プロローグ

1/13
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/225ページ

プロローグ

 1  古代エジプト文明はなぜこんなにも自分を魅了してやまないのだろう。石上月呼(いしがみつきこ)は二十一年間の人生でいつもそう思っていた。  小学二年生の時、家族でエジプト旅行したのをきっかけに、ピラミッドの謎に惹かれる。その後は猛勉強の末、エジプト考古学が学べる大学といえば、の大学に進学した。ナイルの水を飲んだ者は再びナイルに戻ってくるという諺があるように、月呼も大学の授業の一環で何度もエジプトを訪れる。  尊敬する人物はジャン=フランソワ・シャンポリオン。もしも過去にタイムスリップできるなら、ピラミッドの建築に参加したり、シャンポリオンに会いたい。現在、大学三年生の彼女は大学院に進学して研究者になりたいと考えている。  二月一日の夜。昼間から出かけていた月呼は歩いて自分の家まで帰る。 「ただいま」  大学が春季休業中の今は、毎日のように図書館やカフェを利用して、実測図や卒業論文を書いていた。  月呼は五人姉弟の長女で、四人の弟がいる。高校卒業後も親元を離れず、神戸市内にある大学へは実家から通っていた。姉弟ひとりひとりに部屋がある一戸建てでも、七人家族ではややせまく感じる。男兄弟が多いと家はいつもにぎやかだ。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!