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「あぁ・・・どうしよう。このままじゃ今年のバレンタイン、あのバカ検事に義理とは言えチョコあげなきゃいけなくなる・・・」
・・・帰宅して、自分の部屋でひとりごちる佐保子。
藤次の事は検察官としては尊敬できるが、隙さえ見つければ仕事をサボりたがるし、感情的になり被告人に食い付く事もしばしば。
その度に、尻拭いをさせられるのは部下の自分。
だから正直、自分の中で藤次は上司としても、ましてや異性としてなんて論外。
言い方はアレだが、顔も知らない藤次の恋人や和子の反応に、疑問しかなかった。
けど・・・
「ま、まあ・・・全然ダメって訳じゃ、ないんだけど・・・ね。」
1日のおよそ半分を過ごし、付き合いもそろそろ5年。
そこらの事務官より、彼のダメなとこを散々見てきたけど・・・
「あれで結構・・・デキるとこも、あるしね・・・」
他の事務官以上に、彼のカッコいいところも、自分は沢山知っている。
そう思うと、義理チョコくらいなら、いっかなと思う自分が顔を覗き出し、佐保子は微笑む。
「うん!明日、推しちゃんの新刊買いに行く序でに、選んでみるか!!チョコレート!!」
*
「(よーし!推しちゃんの新刊、無事ゲットー!!)」
・・・翌日の休日。
市内のアニメショップから出てきた佐保子は、お気に入りのBL作家の新刊を片手に、ホクホク顔で雑踏を歩いていた。
「後は、検事にあげる義理チョコ探しね。ま、その辺の百貨店のフェアで適当に・・・って・・・!」
ふと、視線の先に見慣れた後ろ姿を発見して、佐保子は瞬く。
「あ、あれ、検事・・・?」
私服だから自信はもてなかった。
しかし、あの締まりのないアホ顔は、見間違いようがない。
「や、ヤバイヤバイ!!チョコ買いに行ってるの見られたら・・・って・・・」
「ほんなら、この店入って一休みするか。絢音。」
「うん!藤次さん!!」
・・・仲良く腕を組んで、側のカフェに入って行く藤次と、初めて見る、彼の恋人らしき女性・・・
自分には見せない、とても幸せに満ち足りた笑顔を彼女に向ける藤次を見た瞬間、佐保子の胸がチクリと痛む。
「・・・えっ?!わ、私・・・なにモヤモヤしてるのよ!・・・そ、そうよ!あのバカ検事には不似合いよね!あ、あんな美人・・・」
そう言ってみたが、何故か胸が締め付けられるような切なさに襲われて・・・雑踏の中、佐保子はただただ、立ち尽くしていた・・・
*
「うーん!!今日も1日、お疲れさんっ!!」
・・・そうして迎えたバレンタイン当日。
何も知らない藤次は、定時の鐘を聞くなり盛大に伸びをして、席を立つ。
「ッ!!」
「ん?京極ちゃん、帰らへんの?」
「あ!いえはい!!か、帰ります!!お疲れ様でした!!!」
「?」
弾かれたように席を立ち、足早に部屋を後にする佐保子に疑問を持ちながらも、藤次はロッカーからコートと鞄を出し、部屋を出た。
*
「(ど、どうしよ〜!!!)」
地検の玄関ホール。
物陰に隠れて、佐保子は鞄の中のラッピングされた高級チョコレートを見つめる。
思えば、朝から渡すチャンスはいくらでもあった。
しかし、今年に限って渡すのも不自然だし、なにより現実・・三次元の男性に贈り物をするなんて、よく考えたら経験がなくて・・・
早く夏子や和子が来ないかなと気を揉んでいたら、エレベーターホールから藤次が現れ、佐保子はドキッとする。
「(な、なにをいつまでもウジウジ・・・相手はあのバカ検事よ!さっさと渡して推し活に・・・)」
そうして、勇気を出して物陰から出ようとした時だった。
「棗検事!!」
「ん?」
「あ。夏子、和子・・・」
名を呼ばれ、不思議そうに振り返る藤次に駆け寄る夏子と和子に、佐保子は瞬き、慌てて隠れて様子を伺う。
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