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「なんや、柏木と大塚んとこの安藤さんに・・・
えっと・・・」
「小森和子です!!ひどい検事!!いつもお部屋に伺ってるじゃないですか!」
「あ、ああ・・・すまんすまん!・・・で?2人ともどないしてん。」
問いかける藤次の眼前に、夏子と和子はそれぞれチョコレートを差し出す。
「検事、甘いものお好きでしたよね?義理ですけど。」
「わ、私は手作りですよ!!棗検事!!」
「・・・・・・・・・」
差し出された2つのチョコレート・・・
あのお調子者だ。和子の気持ちはともかく、きっと鼻の下伸ばして二つ返事で受け取るんだろうと冷ややかに佐保子は見つめていたが。
「すまんな。義理も手作りも、ワシ貰えんねん。」
「えっ?」
「け、検事?!」
「・・・えっ。」
瞬く3人に対し、藤次は照れくさそうに頬をかきながら続ける。
「ウチで手作りチョコケーキ焼いて待っとる相手、おるねん。せやから、堪忍な。」
そうして颯爽と立ち去ろうとする彼に、告白すると息巻いていた和子は食い下がる。
「わ、私・・・一生懸命作ったんです!!だから、棗検事・・・」
その言葉に、藤次はすまなさそうに眉を下げて、今にも泣きそうな彼女の頭をポンと撫でる。
「ほんなら、尚更貰えんわ。ワシ、その娘の傷つく顔、見たないねん。その娘の事、ホンマに好きやねん。せやから、堪忍な?」
「検事・・・」
「ふーん・・・」
「な、なんね安藤さん。」
ニヤニヤと笑う自分に狼狽しながらも、早く帰りたさそうにモジモジしている藤次に小さくウィンクして、夏子は泣き始めた和子の腕を取る。
「いえ別に?では、これは父にでもあげます。ほら、行くわよ?和子。」
「う、うん・・・」
「・・・・・・・・・」
そう言って、泣きじゃくる和子を連れて去って行く夏子と、楽しそうに外へと消えて行く藤次の背中を呆然と見つめる佐保子。
「あれ?京極さん?」
「さ、笹井君・・・」
不意に背後から現れた同僚の笹井稔に、佐保子は何を思ったか、鞄の中身のチョコを渡す。
「き、京極さん?!」
「あげる。いつもありがとう。じゃあね。」
「き、京極さん・・・」
突然の贈り物に動揺する稔を置いて、佐保子はその場を後にする。
*
「・・・・・・・・・・・・」
「(ワシ、その娘の傷つく顔、見たないねん。その娘の事、ホンマに好きやねん。)」
「なによ・・・バカ検事の分際で、カッコつけて・・・」
そう、いつものように貶してみたが、頭に浮かぶ、幸せそうな藤次の笑顔に、佐保子の口角は僅かに上がる。
「ホント、バッカみたい・・・」
・・・自然と口をついた言葉は、純粋な愛を貫く藤次にか。
それとも、何故か浮かれてしまっている、自分へのブレーキか。
分からなかったかったけど、佐保子は白い息をハアと吐いて、いきつけのアニメショップへと、駆けて行った・・・
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