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「棗検事ってカッコイイよね?!!」
「は?」
「えっ?」
・・・麗らかな冬の晴れ間のランチタイム。
同僚の小森和子の発した言葉に、安藤夏子と京極佐保子は声を上げる。
「ま、まあ・・・うちの検事よりは、カッコイイかな?チビデブハゲじゃないし・・・とても同年代には見えない・・・かな?」
「でしょう?!清潔感ある良い匂いするし、汗臭いウチの検事とは大違い!!」
「あぁ・・・加齢臭気にして、毎日しつこいくらい、スーツにファブリーズしてるからね。」
「身につけてるものもさ、さりげにオシャレじゃない?時計なんて、カルティエのタンクソロだよ!?
余裕ある〜」
「い、いや・・・それ、質流れのアウトレット品だって検事言って」
「決めた!!!」
「は、はい⁇」
「な、何を⁈」
瞬く2人に、和子は頬を染めてとんでもないことを口にする。
「アタシ、今度のバレンタイン・・・棗検事に、告白する!!!」
*
「ど、どうすんのよ・・・だから私、いつも言ってるのに・・・さっさと彼女持ちだって言えって!」
「そ、それを私に言われても困るよー!それにあのバカ検事、そーゆーことになるとホントビビりだから・・・」
・・・ランチからの帰り道。
既に藤次には絢音と言う恋人がいる事を知っている2人は、何も知らない和子の発言に、戸惑いを隠せないでいた。
「と、とにかく!私も和子と一緒に検事に義理チョコあげるわ!和子思い余って検事に何するか分かんないし・・・」
「な、何もそんな物騒な話しなくても・・・」
「あら。じゃあ、和子がフラれた腹いせに検事刺しても良いの?検察官が色恋沙汰で裁判だなんて醜聞、私嫌よ?」
「う、うーん・・・」
和子は、普段は穏やかだが、感情的なところがあるのは事実。
上司が血まみれになる現場を想像して戸惑いを隠せない佐保子に、夏子は迫る。
「じゃあ、お互いバレンタインまでにチョコレート用意!!分かった!?」
「ええっ!?わ、私もあげるの?!あのバカ検事に?!!!
む、無理!!」
「なによ!私だけに和子のお守り任せるわけ?!」
「い、いや、それは・・・」
「じゃあ決まりね!精々高いチョコレート贈って、ホワイトデーに取り返しましょう?」
「え、えぇ・・・」
*
「も、戻りました〜」
「お、おう!お帰り、京極ちゃ……っえっくし!!!」
・・・京都地検の、棗藤次検察官室。
重い扉を開き部屋に入ると、木製の重厚な机の引き出しをゴソゴソしながら鼻を啜る、上司で和子の思い人、棗藤次。
「風邪ですか?」
「い、いや・・・な、なんか昼頃から妙にムズムズして・・・」
「あー・・・ははは・・・」
きっと、自分達の姦しい噂話が生んだ悪魔の仕業だろうと苦笑いを浮かべていると、藤次は鼻紙でチーンと鼻をかみ、自分を見上げる。
「せや!京極ちゃんがいっつも行ってる店、ちょい教えてーな!」
「は?!」
不意に、上司から思いもよらない事を聞かれ、机で書類を整理していた手を止め彼を見ると、頬を染め、何やら照れ気味の藤次。
「い、いや・・・最近デートがマンネリ化してきたよし、新規開拓しよかなぁ〜て!」
「はあ・・・そう言う訳なら構いませんが、先に当たり前の事確認しますが、近いですよ?ここからかなり・・・」
「そ、そうなんか?まあ、そやな。昼休みに行ける範囲やし・・・せやったら、ナシやな。他の連中に知られたらあかんし・・・やっぱり、次は嵐山のあそこにするか・・・」
「・・・っと言うか、いい加減私や安藤さんだけじゃなく、もっと公にされたらどうです?別にやましい事されてるわけではないんですし・・・」
先程の夏子達とのやりとりを思い出し、思い切って彼女持ちを公にしろと進言してみたが・・・
「そんなん、恥ずかしわ。第一、ワシに女がおるなんて同僚に知れたら、やれ仲人は結婚はと根掘り葉掘り騒がれるの、嫌やねん。」
「は、はぁ・・・」
「せやから、これからもこの事は極秘!なあに。
そのうちどうにかするよし。せやから、な?これまで通り、黙ってて。」
「い、いや・・・検事がそんなだから私にとばっちりが・・・」
「さあさ!この話はここでお終い!!聴き込み行こか?京極ちゃん!」
「は、はぁ・・・」
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