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プロローグ
人の脳はその構造上、生まれた時から死にゆくその時までの記憶を、全て覚えているという。
文字通り、全てだ。
いつ、どのタイミングか、前後の状況……人の言葉、視界の端の景色、意識が留めたわずかな動き…‥一木一草、事事物物の悉く、その全てだ。
そんなわけがないと、多くの人は思うだろう。忘れていくことはあるし、全ての記憶を覚えていることはできない。
そうなのかもしれないと、おれも思う。どちらが正しいのかなんて、誰にもわからない。
だが、最も大事な記憶だけは決して消えることはないと、おれは信じている。
机の奥にしまって、長い時間が流れ、その存在を忘れてしまうほど埃をかぶったとしても。
それでも、捨てたわけではないその記憶を思い出すことはできる。
そのきっかけさえあれば。
なぜなら、それはその人が生きてきた意味そのものだから。
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