伝説のクラウン詩

1/1

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

伝説のクラウン詩

 アヴリル(ネロ)が演じたクラウン詩は、世界で爆発的な人気を呼びます。  途中まではネロのキャラクターのままでクラウンを演じる予定でしたが、ふと和装のクラウンも面白いんじゃないか? というアイデアが思い浮かびました。無邪気で天真爛漫なキャラクターを持つネロのままでも充分魅力的なクラウンができたかもしれません。でも、太陽のクラウンと呼ばれたソ連の名クラウンオレグ・ポポフや、当作品にも名前が出てきたチャップリンと並ぶほどの才能のあった夭折のクラウンエンギバロフみたいなカリスマ性のあるクラウンを作りたかったんです。そして、アヴリルやネロとは正反対のキャラクターを。  下手くそな三味線を弾き袴を纏い鞠を持ってジャグリングをしたり、鞠や枡で傘まわしなど神楽みたいな芸を披露する。そしてバルーンアニマルの代わりに観客に紙風船をプレゼントする。ある意味唯一無二のクラウンです。  ですが、お父さんがオーストラリア人、お母さんがアルゼンチン人であるアヴリルは、元々ルーツが日本にありません。なので日本語の名前で日本の衣装を着、日本の道具を使ってクラウンを演じるということは、彼女のアイデンティティの崩壊をもたらしかねません。実際彼女は自分は何者なのか? という問題に打ち当たり苦しみ続けることになります。サーカス列車では男の子のネロを演じ、リングでは詩を演じるーー。彼女のアイデンティティと心は3つに引き裂かれてしまいます。  そんなときケニーがかけてくれたのは、「素顔の君が1番素敵」という言葉でした。この言葉に救われたアヴリルは救われます。  サーカス列車を飛び出したあとアヴリルはイスラエルでタネルという男に救われ、彼とともに大道芸を披露しながらアフリカ諸国を旅します。そこでクラウンの詩に別れを告げます。ケニーが言ってくれたように素顔のままーーアヴリルという女の子のままでクラウンを演じることに決めます。そんなこんなで詩は伝説のクラウンとなりますが、きっと多くの人の記憶に残ることでしょう。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加