東京ニューストリート

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 真っ暗な空が好き。太陽は眩しいから。夜はすべてを覆い、埋め尽くしてくれる。月や星は私を射さない。  埋めてくれるのは空っぽの心なんじゃないかと思う。私ってなんで生きてんの?とか、生きてる意味ある?とか、誰に必要とされてんの?とか。大体生きること関係。人間の本能だから執着しているのかなと思う。  生きろって言葉は嫌い。そんな決定的な一言は、強くて私は言う気になれない。その一言も夜の中に消えちゃえと思っていた。意味なんてないよ。全部。  その日は夜の中で一人きり、話しかけてきた男の子がいた。見たことない。名前も知らない。道の端で一人座り込んでストゼロを飲んでいた時だった。友達いないの?って聞かれた。いないよー、バイバーイ、ってあしらったら、俺友達になってあげるから友達になってよって言われた。  何こいつ。めっちゃあやしい。友達になってあげるっていう言い方が間違っている。  そう思っていたんだけど、チョロく話していたら不幸の境遇がよく似ていた。端的に、帰る家ない。別段、珍しくもないこと。2本目のストゼロをおごってくれた。お金がないから単純に嬉しかった。  だから夜中じゅうずっと喋った。誰がどこで死んだとか、やったらアウトなこととか、そんな話ばっかりだったけど楽しかった。私はどうせ一人で死んでいくと思っていたから、こんな日があってもいっかと思った。朝日が昇っても一緒だったから、一人くらいこんな子がいてもいっかと思った。  けど私は多分、ほんの一瞬、気が緩んでしまったんだと後になって気付いた。  その日の夕方、その男の子はビルの陰で死んでいた。オーバードーズで死んでいた。この子はきっと、死ぬ前に誰かに全部話したかった。夜通し喋れる相手が最後に一人、欲しかった。私が助かってごめんねと思った。一緒に死ねば良かったんだ。路上にそなえられた花もストゼロも、全部蹴散らしたくなった。  また一人の夜になる。慣れていたのに、悲しいのはなんでだろう。そう思いながら、私は今夜もまた、夜の中を彷徨い続ける。面影を追うのは、この街では、広すぎて、狭すぎて、見えなくて、分からない。ただ、さようなら、また会おうね、というありきたりな言葉を夜空に浮かべる。 (了)
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