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 中学の時、同級生と岩場で遊んでいた。  ちゃんとした海用の靴ではなく、ビーサンで遊んでいたので足を滑らせて海に落ちた。  落ちたと言っても岩場の浅瀬にはまっただけだったので、すぐに引き上げてもらった。  足首の上からふくらはぎの真ん中辺にかけて岩で足を切ってしまった。  でも、まだみんなと遊びたかったし、助けてくれたおじちゃんも塩水で洗っとけば大丈夫だ。と言うので、海水で良く洗い、血も止まったのでそのまま傷の事は忘れて家に帰った。  あっさり血は止まったのに傷がうずく。  親に言われて仕方なく医者に言ったら医者が一瞬おののいて俺の足を二度見した。 「君の足の傷にはばい菌が入ったようだね。」  俺の足は菌が入って倍にも腫れ、膿んでいた。 「あの、あの、まさかフジツボがびっしりなんてことは・・・・」  医者は一瞬驚いたような顔をしたが、 「あれは都市伝説っていうか。まぁ、無い話だよ。フジツボは普通寄生しないから、大丈夫だよ。抗生剤を出しておくから3日分ね。あ、薬を飲み終わっても傷が治らなかったらまた診せに来てね。」  俺はフジツボがびっしりの話を結構信じていたので、ビビっていたのだが、そうか、都市伝説なんだ。  じゃ、抗生物質をちゃんと飲んで早く治そう。  そう思って帰宅した。  医者は看護師を呼んで話をしていた。 「なぁ、フジツボは付くわけないんだけどさ。あの傷、どう思う?傷の中から何かが僕の事見てたんだよね。」 看護師は言った。 「あら、やだ。私の見間違いかとばっかり。だって先生膿んでいるだけだって・・・」 「だって、そんなこと本人に言えるわけないだろ?なんて説明するのさ?」 「お薬、効くと良いですねぇ。」  その夜、俺は足の激痛で目が覚めた。思わず身体が震えるほどの痛みだ。 『くそっ!薬飲んだのに~。全然聞かないじゃないか。』  足の包帯が何故かほどけている。  俺は、巻きなおそうと、足を見た。  暗がりの中、足の傷の中で何かが光った。  その瞬間俺は更にひどい激痛で気を失ってしまった。  いや、気を失っていて良かったのかもしれない。  俺の足の傷は、内側からメリメリと音を立てて外側にひっくり返っていく。  その傷から他の身体の部分もひっくり返っていったのだ。  朝日の明るさで目を覚ました俺は、自分の視界が随分と低いことに驚いた。  自分で歩くこともできない。  何故か、俺は自分の意志ではなく動かされ、全身映る鏡の前に立った。 「どう?見える?君のいる場所。ようやく表に出られたよ。」  俺は話すことすらできなかった。  鏡にうつっていたのは、俺にそっくりの中学生が、目玉の覗く足を鏡に映している所だった。俺が動くと目玉も動く。どうやら俺は目玉になってしまったらしい。 「お医者さんの薬飲んだら、きっと傷もふさがるから、君は消えちゃうけどね。  あ、俺?あの岩場の上から足を滑らせて落ちて死んだんだ。顔面から落ちてさ、目玉だけ見つからなかったんだよな。ずっとあの岩場に引っかかっていたんだけどさ、そこに運よく君の足が滑ってきたってわけだ。傷が開いた時に思わず入ってみたら、だんだん君の足と同化してねぇ。なんか、これだったら、俺、人間に戻れるんじゃない?って思って、思い切って昨夜傷から出てみたんだ。」  そういうと、俺にそっくりな中学生はこれ見よがしに医者から貰った抗生剤を飲んだ。俺は焼けつくような痛みを感じた。あぁ、溶けてしまう。  三日間、俺の代わりになった俺が薬を飲むと、傷はすっかりふさがった。  俺はもう何も感じなくなっていた。ただ、真っ暗な中に、赤い血管が走る姿が見えるだけだ。  医者は家に電話をしてきて、傷が治ったかを聞いてきた。  母親が医者にすっかり治ったというと、医者はそれは良かったですと言って、電話を切ったそうだ。  俺はいつの日か、足から出られるのだろうか?同じ場所を切ってくれればチャンスがあるのかもしれない。だって、元々俺の身体なんだからきっと戻るのは問題ないはずだよ。  それまで、意識を失わないように目を凝らして生きて行かなければ。だって、暖かくて居心地が良くてついつい眠ってしまいそうになるんだ。  あれ?元々俺の身体なんだからもしかして、同化しちゃうのかな?  そうしたら偽物の俺に取り込まれちゃうって事?  あぁ。。。眠い・・暖かくて。。。心地よい・・・・・ 【了】  
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