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話がずれていたのを店主が無理やり軌道修正し、ファジュルは腰布に挟んでいた小袋を取り出す。
「二十ハルドだ」
「そうか。迷惑料も含めて三十ハルド払おう」
「お、おう。わかってんならいいんだよ」
色を付けてもらえるとあって、店主は戸惑いながらも代金を受け取った。ルゥルアがユーニスの耳から手を離して一歩下がる。
「ユーニス。何をしないといけないかわかるか」
何をしろとは言わず、ファジュルはユーニスに促す。ユーニスは握りしめて形が崩れてしまったパン、屋台の店主とファジュルの顔を見て、しぼりだすような声で言った。
「ごめんな、おっちゃん」
「もうすんじゃねぇぞ。次やったらガキだろうと、問答無用で兵士を呼んでやる」
「うん」
穏便に話をつけ、ファジュルはルゥルアとユーニスをつれて裏路地に入った。
入り組んだ裏路地の先は、素人が手作りした小屋が乱雑に並び、埃とゴミにまみれたスラムがある。
ファジュルはパンを抱えてご機嫌な弟分を、ため息まじりに見下ろす。
「まったく。無茶をする……」
「だって腹減ってたんだもん。はい、兄ちゃんと姉ちゃんの分。買ってくれてありがとな」
ユーニスはパンを三つにちぎり、一番小さいのを自分の口に入れ、残り二片をファジュルとルゥルアに差し出す。
二人も食事は二日ぶり。空腹なのはユーニスと同じだった。
小さなパンをじっくり噛んで飲み込む。
最初盗もうとしていたとはいえ、一応金を払ったし、追手がついたりはしないだろう。
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