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「こんな形でここに帰ってくる日が来るなんてね」
イーリスはなんとも言えない心境のようだ。
「行きましょう。今の時間なら玉座の間にいるはずです」
ジハードの言葉に全員が頷く。
城内のあちこちに、薬で眠る使用人と侍女が倒れていた。アスハブとディヤがうまくやってくれた。
薬を盛ったことへの罪悪感はあるが、戦闘に巻き込まないためだ。
途中警備の兵がいたものの、騒ぎ立てられる前にジハードとアムル、ファジュルが鎮圧する。見張り交代の者が来るまでそう時間がない。
スラムに出撃している兵たちが戻って来てしまったら一巻の終わりだ。各所に配備された兵をイーリスと、手負いのハキム以外の三人で倒す。
覚悟を決めたとはいえ、やはり敵兵を斬る心の痛みは消えない。ファジュルは命を奪ったことを心の中で謝り、先を急ぐ。
目的の玉座の間入り口を守る兵が、侵入者に気づいた。
「な、まさか、反乱ぐ……」
兵が剣を構え終える前に、ジハードとアムルが一刀両断。応援を呼ぼうとする者を切り捨て、ファジュルたち五人は玉座の間になだれ込んだ。
玉座に腰を下ろしている男が、ゴミでも見るような目でファジュルたちを睨んでいる。
イスティハール・アル=ガーニム。
ファジュルの伯父であり、ファジュルの家族を殺し尽くしたその人。
ガーニムの隣、玉座よりも小さめの椅子にはマッカが座る。玉座のやや後ろに、アスハブと細身の男、侍女が控えている。
「俺がなんのためにここまで来たのか、わかっているはずだ、ガーニム。貧民救済のためにも、玉座を明け渡してもらう」
「ファジュル、か。アシュラフに似て憎たらしい顔をしている。たった五人で来て、大きな口を叩けたものだ。ここに来るまでに、かなりの数仲間を失っただろう。まぁ、ドブネズミなど履いて捨てるほどいるからひとりふたり死んでも惜しくはないか」
敵が突入してきたというのに、ガーニムは微塵も動じていない。
人の神経を逆なでするのが趣味なのかと思うような言い方で、ファジュルを見やる。
ゆっくりと玉座から立ち上がり、剣を抜いた。
「そちらから来てくれて手間が省けた。シャムス、仲間を一人残らず殺されたくなければこちらに戻れ。城を抜け出したことは多目に見てやる」
「お断りします。私は戻りません。ここにいる仲間も、スラムにいる仲間も殺させません」
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