滅びゆく政権

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 イーリスがうんと言わないことに、ガーニムは歯ぎしりした。この期に及んで誰かを盾にして自分の権威を守ろうとすることに、ファジュルは怒りを覚える。イーリスの仲間を思う優しさに付け入るなんて、最悪だ。 「いいのか、ファジュル。俺は王国兵の全軍をスラムに向かわせた。お前が俺に歯向かうなら、スラムにいるドブネズミ全部を殺し尽くす。ここで俺を殺しても守るものなんて何も残らんぞ」 「ドブネズミではなく、人だ。彼らは全員、心を持った人間だ。なぜそれがわからない」  ファジュルは父の形見である短刀を構え直す。 「ま、待ってください! あなたは陛下の甥にあたるのでしょう。家族が傷つけ合うなんていけません!」  マッカが両手を広げ、ガーニムの前に立った。  人質として無理やりガーニムの妻にされたというのに、なぜそんな行動に出られるのか。ファジュルは驚く。 「……あんたに用はない。巻き込まれたくないなら下がっていてくれ」 「下がりません」  その場を動こうとしないマッカを、庇われている当人が突き飛ばした。 「邪魔をするな!!」 「きゃあ!!」  マッカが倒れ、ガーニムはファジュルたちではなくマッカに剣の切っ先を向ける。 「わかったような口をきくな。自分が人質にすぎないことを忘れたのか」 「ガーニム、様……」  ハキムが顔を隠していたターバンを取り、その場に膝をつく。 「陛下、もうおやめください。これ以上罪を重ねないでください。王妃様は真に貴方のためを思って行動してくださっているのです」 「…………ハキム? 告発のあと姿を消したと聞いていたが、そうか、反乱軍に寝返ったか」  怒りに満ちていたガーニムの顔が歪む。   「ふ、ククッ。裏切ったばかりでなく、反乱軍について。その口で俺に指図するか、罪を重ねるなと。俺の敵になったくせに、上から物を言うのか。雑兵の分際で、国王の俺に」  自嘲するガーニムの声はひどく冷たい。 「どいつもこいつも、なぜ、なぜ! 俺を、俺のやり方を認めない! なぜ、お前は間違っているという! 俺は、国王なのに!」  怒りに任せて振り下ろされた刃は、マッカを斬る前に弾かれた。
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