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「……せめて、マッカを幸せにしてくれるならと思っていたのに」
ジハード……いや、ウスマーンが殺意を込めてガーニムを睨む。
マッカは自分を守る男の背に、声に、息を呑んだ。ターバンを巻いて顔を隠していてもわかる。生まれてからそばにいた人。親代わりになって育ててくれた人。
大怪我を負ったと聞き、ずっと身を案じていたその人だから。
「にい、さん……?」
妹に呼ばれ、ウスマーンは静かに頷く。
緊張の糸が切れ、マッカは兄の背にすがりついて泣いた。
「兄さん、あぁ、兄さん……無事でいてくれたのね」
「連絡も取れずにすまなかった、マッカ」
マッカの反応、聞き覚えのある声、背格好。
ガーニムはマッカを守った敵兵がウスマーンであると、認めざるをえなかった。
「ウスマーン、だと? そんな、ばかな。生きているはずがない。ディヤが、殺したはず……」
ガーニムはバッと、弾かれたように召使いを見る。
「嫌ですわ陛下。アタシは、『抵抗されたので、つい』とは言いましたけれど、殺したなんて一言も言っておりません」
召使いの男……ディヤは場違いなほどゆったりと微笑む。
ディヤは忠臣の皮をかぶりウスマーンを逃した。そしてガーニムが要らないと言って捨てたウスマーンを、反乱軍がすくい上げた。
傭兵と素人を寄せ集めただけの反乱軍が、なぜ正規軍に抵抗できたのか、嫌でもわかっただろう。
この場に自分の味方と呼べる者がいないと、ようやくガーニムは気づいた。
唯一心から寄り添い、味方であってくれたマッカは、その手で突き放した。
ガーニムは怒りに震え、あらん限りに叫ぶ。
「もういい。逆らうものなんて要らない。こうなったら、俺に歯向かったお前ら全員、死んでしまえ! 殺してやる!!」
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