ガーニムの本懐と、ファジュルが思い描く未来

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 ウスマーンが剣を一閃した。  汗で濡れた柄が滑り、ガーニムの手が空になる。  しまったと思う間もなく、ファジュルの拳がガーニムの顔面を打つ。  よろめくガーニムを、ウスマーンが後ろ手に押さえつけた。ガチリと音がして、冷たい感触が手首をとらえる。    なぜ国王である自分が罪人のように手枷をはめられ、反逆者に膝を折らねばならないのか。ガーニムは怒りと屈辱で歯を食いしばる。  ファジュルの右手には、歴代の王が身につけていた短剣がある。それで刺されて終わるのか。  ウスマーンを振り払おうとしても、後ろ手に手枷ではなんにもならない。  一歩、また一歩。ファジュルはガーニムに歩み寄る。 「……話して分かり合えないなら、なぜ人は言葉を持っているんだろう」  アシュラフがよく言っていた言葉を口にする。  目の前、手の届く距離に来た。  ファジュルはガーニムを刺すことなく、鞘に収めた。
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