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「どうしても、話しあうことは叶わないか?」
「ふん。だから俺はアシュラフが嫌いなんだ! 上から目線でわかり合おうなどと持ちかけてくる。自分が優位だと言っているようなものだ!」
「気に食わないものを壊して無理やりわがままを通す、そんなの癇癪を起こした子どもと同じじゃないか。俺たちは王族、それでは駄目だ」
話し合おう、アシュラフがそれを言うたびガーニムの矜持はひどく傷ついた。場を用意して話さなければわからない阿呆だと言われているようで腹立たしかった。
ファジュルは胸に手を当てて、強い口調で訴える。
「優位とか下位とかそういうことじゃない。俺はこの十八年スラムで暮らして、貧民たちをずっと見てきた。スラムの現状を見てきた。産まれた赤子のほとんどが、一歳になる前に餓死する。仕事をしたくてもドブネズミにやる仕事なんてないと言われる。貧民という壁があるから」
ガーニムには理解しがたい考えだった。
「産まれた赤子が餓死する。そんなの育てる金もないのに産んだドブネズミが悪い。なのに俺のせいだとでも思っているのか? 頭が悪すぎて反吐が出るな」
「それはこれまでの王族が貧民という人間扱いされない身分をつくり、貴族も平民もその制度を当然としてきたからだ。俺はそんなの嫌だ。この国に生まれた以上、スラムの人間も等しくイズティハルの民だ」
アシュラフと同じことをいう。親子揃って同じことを。
ファジュルもアシュラフも、何度振り払おうとガーニムに訴える。
だからガーニムも、何度でもくだらない理想を嗤ってやる。
「ふん。今更だ。何十年何百年続いてきた制度をいま変えて、貧民以外が素直に受け入れると思っているのか。人は底辺が、自分以下がいるから己の矜持を保てるのだ」
「長く続いた制度を変えるとは、そういうものだろう。きっと俺の子世代、孫世代になってようやく浸透するくらいだ。どんな大河でも、源流は小さい湧き水。俺は最初の一滴を作るために王になるんだ」
嗤われてもファジュルは意見を貫く。
孫世代のために、国という大河の流れを変えるのだと。
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