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ファジュルがぽつりと呟く。
「……あんたでも、泣くことがあるんだな」
「泣く、だと? 誰が」
言われて、ガーニムは自分の頬が濡れていることを知った。
ガーニムは生まれてこのかた泣いたことなどない。泣くなんて弱者のすることだからだ。強いガーニムは泣く理由がない。
王族たるもの、弱みを見せてはいけない。だから泣くことは許されぬことなのだと思っていた。
泣いていることに誰よりも驚いたのは、ガーニム自身だ。
「ワタシがずっとおそばにいます。だからガーニム様。もう、やめましょう」
ガーニムを見るマッカの瞳には、怯えも憐れみも見えない。
もういいのかもしれない。
くだらないことにこだわって、全部壊さなくても。
本当はずっと欲しかったのかもしれない。こうして、悪いところも含めてガーニムをガーニムとして認めてくれる誰かが。
大嫌いな相手に敗北したというのに、ガーニムはもう、悔しいだとかファジュルを殺したいだとか思わなかった。
マッカが泣きやむ頃、ファジュルが静かに言った。
「大丈夫だ、マッカ。ガーニムのことを殺しはしない。生きて、時間をかけて知ってくれればいい。貧民たちの生活、スラムで生きる人々のこと。彼らはたしかに人なのだと」
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