ガーニムの本懐と、ファジュルが思い描く未来

5/5
前へ
/273ページ
次へ
 ファジュルがぽつりと呟く。 「……あんたでも、泣くことがあるんだな」  「泣く、だと? 誰が」  言われて、ガーニムは自分の頬が濡れていることを知った。  ガーニムは生まれてこのかた泣いたことなどない。泣くなんて弱者のすることだからだ。強いガーニムは泣く理由がない。  王族たるもの、弱みを見せてはいけない。だから泣くことは許されぬことなのだと思っていた。  泣いていることに誰よりも驚いたのは、ガーニム自身だ。 「ワタシがずっとおそばにいます。だからガーニム様。もう、やめましょう」  ガーニムを見るマッカの瞳には、怯えも憐れみも見えない。  もういいのかもしれない。  くだらないことにこだわって、全部壊さなくても。  本当はずっと欲しかったのかもしれない。こうして、悪いところも含めてガーニムをガーニムとして認めてくれる誰かが。  大嫌いな相手に敗北したというのに、ガーニムはもう、悔しいだとかファジュルを殺したいだとか思わなかった。    マッカが泣きやむ頃、ファジュルが静かに言った。 「大丈夫だ、マッカ。ガーニムのことを殺しはしない。生きて、時間をかけて知ってくれればいい。貧民たちの生活、スラムで生きる人々のこと。彼らはたしかに人なのだと」  
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加