20人が本棚に入れています
本棚に追加
マッカを救うために戦ったウスマーンには、なんとも言えない思いがあるだろう。
マッカは、ガーニムのそばにいることを望んだ。
「俺たちも勝つためとはいえ、何人も王国兵を屠った。だから、ガーニムが何人も殺してきたことを責める権利はない。経緯がなんであれ、俺もガーニムも、人の命を奪った事実は変わらない」
「……うん」
同じ殺すことでも、なんのために殺したのか理由が全然違うと慰める人もいるだろう。
それは言い訳だ。殺された人の家族からすれば、人殺し以外の何者でもない。
「だからせめて、俺は王になって背負う。彼らの死を無駄にしないために」
これからファジュルは国政の側に立つ。そしてルゥルアも。
スラムの人々に視線をうつして、ファジュルは微笑む。
「みんな、本当にありがとう。ここからイズティハルの新しい時代を始めよう。人が平等に生きられる国にしよう」
あたりが大きな拍手と歓声に包まれる。
オイゲンはスラムの人とハイタッチする。
ディーが片手を上げてファジュルに願い出る。
「それじゃあへーか! ボク、ハインリッヒさんとこに伝令にいきたいー! 早くこのこと伝えないとでしょ。ボクが行っていいよね。ね! お城のラクダを借りていい?」
「伝令に行ってくれるのはありがたいが、陛下と呼ぶのはやめろ。まだ戴冠式も何もしていないのに」
「ええー、じゃあなんて呼べばいいのさ」
「……これまで通りじゃだめなのか」
王様になっても、ファジュルはやっぱりファジュルのままだ。ラシードが、そんなファジュルの前に膝をつく。
「いい加減観念してください、陛下。背負うと決めたのでしょう? ならば陛下と呼ばれること、仕えられることに慣れてください」
「たのむから言質を取らないでくれ、じいさん」
立場は変わっても、ファジュルとラシードのやり取りは『貧民ファジュルと祖父のラシード』。
そんな様子にみんなも笑い出す。
笑いの起きる輪の中に、ラクダを引いたイーリスが飛び込んできた。
「ファジュルさん、ファジュルさん! 私、ラクダを連れてきました。私がハインリッヒ領への伝令になります!」
一人飛び跳ねはしゃぐイーリス。ファジュルがだめと言っても裸足で駆け出して行きそうだ。
「え、だめだよイーリス。イーリスは道がわからないし、女の子一人で送り出してもらえると思っているの? ボクが行くからここで伯父さんと負傷者の手当てしててよ」
「そうですよ、イーリス。戦ってくれた方たちを労うのも大切な仕事です」
「うぅ。……せっかく旅に出られると思っていましたのに……」
意気込んでいたのに、残れと言われて意気消沈。キラキラ輝いていた笑顔が暗くなる。ヨハンに慰められても暗い顔だ。
最初のコメントを投稿しよう!