新しい書生

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 ヒソヒソと立ち話をしている奥様方が、私のほうを物珍し気に眺めた。  私の先祖に当たる川野定敏は江戸時代、旧山川藩十六万石の藩主だった。明治十七年に華族制度が確立。伯爵になった。華族は「公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵」の五階級に分けられていた。うちは真ん中の伯爵に当たる。  私には道端にいる奥様方の噂通り、腹違いの弟がいる。私には兄が一人いた。しかし夭折してしまい、母は私を産んだ後、なかなか子宝に恵まれず父は妾を持った。その妾との間に産まれたのが弟だ。私の後は、腹違いの弟が継ぐことになっている。弟の名は宗次。妾のために住居を持ち、父はたまにそこへ通う。まだ弟は五歳だ。戸籍に登録されており、法的な権利は、実子と同じ扱いになる。妾は女中などと同様の奉公人と見なされ、家の主人との雇用契約となる。妾の女性はまだ若い。二十一だ。一般庶民の女性だった。
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