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とても香りが良い紅茶は、心を落ち着かせてくれる。私の好物のバームクーフェンを頬張りながら、眉根を寄せた。
「そうそう、荒川伯爵の奥様とお話があるんだったわ」
母はウキウキしながらスッと立ち上がる。荒川伯爵の奥様は、母が女学校時代からの友達だった。独身の時は子爵令嬢だったが、伯爵と結婚して格が上がった。
「私達もお夕飯のお手伝いが」
湯江とトメが言う。そんな私を見て、母は言う。
「貴女はお勉強なさい」
「はい……」
私はそれに従い、立ち上がる。今日は家庭教師の日ではなかった。稽古もない。
(もし、中田さんの後をつけるのなら、今日しかないんだわ)
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