恋心とうらはら

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 私はピンク生地に梅の花の柄の着物の裾を翻し、立ち上がった。自分の部屋へ戻るふりをして、調理室のほうへ向かう。トメと湯江に気づかれないよう、隠れながら向かった。(調理室に、勝手口があったわ!)  絨毯が敷かれた廊下をしゃなりしゃなりと歩く。調理室からは、何やら洋食を作っているらしき香りが漂ってきた。広い調理室では、夕飯の準備に取り掛かっている。六人くらい居た。腕のいい調理人がミルクを使っている。何かのコキールだろうか。 「あ、お姫様いかがなさいました?」  私は食べ物が欲しくなった時、よく調理室へ向かう。そこで何か甘いものを頂くのだった。 「甘いものが欲しいんですよね」  女性給士さんが言う。 「そうなの。何かないかしら?」 「分かりました。ババロアというかムースであればすぐにお作り致します」  料理長は、冷蔵庫の中から何かをお出ししていた。 (さて、今だわ)
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