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学生服のまま、彼は外へ出かけようとしていた。
(やはり、どこかへ行くのかしら)
彼女との逢瀬だろうと予想した。見つからぬように、彼がそっと門から出て行くのを見届けてからそのまま、後をつける。アパートからは在宅中の書生が物珍し気に、私のほうへ窓から視線を遣る。
「お姫様」
メガネをかけた真面目そうな青年が、何故かうっとりして私を見つめる。確か彼は医学生。この方も父が目をつけて書生にした者だ。
「失礼。ごめんあそばせ」
一応、社交辞令のみの笑みを浮かべ、そそくさと立ち去る。彼に構っている暇はない。充分な距離を取り、中田さんの後をつけた。道行く人は時折私の顔をチラ見しながら通り過ぎる。
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