恋心とうらはら

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毎朝、人力車で通学する私を知っている人も通りすがりの人の中にはいるだろう。しかし、そんなことを気にしている場合じゃない。陽は傾きはじめ、夕刻に迫っている。もうすぐすると、会社帰りの人で溢れる時間帯ではないか。  レンガ造りの建物、昔ながらの長屋が乱立する街中を初めて私は来た。柳の木が道端に植えられており、石畳の道の上で、袴姿を来た女学生を一人遠くで見かけた。 (あの方が)  すぐに分かった。私が通っている女学校の学生より大人びている。白い着物に紫色の袴姿。あれこそ帝国女子師範学校の方だ。あまり近づいてはいけないと思い、建物に隠れ、様子を伺った。 (あぁ……)  この姿を見たらむね子嬢もさぞ、ガッカリすることだろう。私は勝手によろめいた。 (バカみたい)
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