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恋などとそういうものは、私達には許されない。もしもしたとしても、つかの間の娯楽。私達には関係ない。諦めなさい。身を引きなさい。歯を食いしばるしかなかった。恋に酔っている場合ではない。
「ほんと、バカみたいだわ」
呟きが漏れ、屋敷に引き返そうと踵を返したときだった。
「おやおや、これはこれは伯爵のお姫様」
そこへ立っていたのは、糊の貼った背広を着た背の高い男性だった。顔立ちは良い。身なりも良い。当たり前だ。この方は子爵なのだから。そう彼の名は、沢野重孝。旧伊香藩八代当主に当たる。年はまだ若い。その男性は見覚えがあった。年は確か二十八歳。職業は貴族院だ。沢野家は小大名だったため、経済状態が芳しくなかった。そのため強く、議席を欲した人の一人だ。
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