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「いえ、それにはおよびませんわ。大丈夫でございます」
私は散々、女子学修館で学んだ礼の作法を使った礼をした。こんな人と結婚なんかしたくない。それにうちは、幼い弟が川野家の家督を継ぐと決まっている。私は嫁に行く立場だ。婿養子など、不要である。
「そうも参りません。奥様やお付きの者達が心配しておいででしょう。こんなところにいるなんて、今は屋敷の中は大騒ぎではないですか。そうしたら、怒られるのは貴女のお付きの者なのですよ。可哀想だと思いませんか」
いちいち正論を振りかざすから、憎たらしい。ここで負けてたまるかと、粘り強く試みる。
「いえ、結構でございます。うちの職員のことまで心配して頂かなくても大丈夫ですわ」
通学の際通る、いつもの通り道。見慣れた道だ。家路まで私だって分かっている。
「何をおっしゃいますか。お姫様をこんなところで、放っておくわけには参りません」
沢野子爵は、私の腕を力強く掴んだ。
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